認知症ケアの4原則は「共にある」「行動の了解」「安定した関係」「タイプ別のケア」です。相手を尊重し、そして丁寧に向き合っていく姿勢が、認知症のケアにおいて欠かせない姿勢といえるでしょう。
本記事では、認知症ケアの4原則を含む基本的な視点を解説します。記事後半では「パーソンセンタードケア」の5つの視点を用いて、ケアに必要なポイントを詳しく紹介します。
この記事を読めば、認知症ケアの多角的な側面を理解し、実際のケアに活かせる具体的な知識とスキルが身につくでしょう。
認知症ケアの基本的な視点
認知症ケアとは、医療的な側面だけではなく、その人自身の「個性」や「尊厳」も保持しながら、多角的なサポートを提供することです。適切な認知症ケアにより、認知症の方が安心して日常生活を送れるようになります。
以下では、認知症ケアの重要性や心と体のケアの必要性について説明します。
認知症の方への正しい接し方に関する情報はこちら
関連記事:【認知症の正しい接し方】間違った接し方は症状を悪化させることも
認知症ケアのあり方と重要性
認知症ケアは、症状を管理するだけではなく、尊厳の保持と社会参加のために非常に重要です。「自分は社会から孤立しているのではないか」という認識が、さらに症状の進行を引き起こすため、心のケアも含めた多角的なサポートが必要です。
たとえば、食器洗いや洗濯物たたみなど、本人ができる範囲でお手伝いしてもらえば、認知症の方も社会参加ができます。認知症ケアは単なる症状管理以上に「その人らしさ」を重視したサポートが不可欠です。
心と体、両方のケアが必要な理由
認知症の方にとって、心と体のケアはどちらも大切です。精神的な負担を和らげるために心のケアが必要な一方で、健康を維持するための身体的ケアや安全な環境の提供も重要だからです。
心のケアでは、話を聞いたり一緒に散歩したりと、本人に寄り添い理解を示す姿勢が有用で、体のケアでは食事・水分の管理や、運動・排せつのサポートが必要です。
このように、認知症ケアでは心と体の両方の考慮が求められます。
認知症に関する詳しい解説はこちら
関連記事:【PART1】~認知症と物忘れの違い・初期症状チェックリスト~
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認知症ケアの4原則
認知症ケアでは、その人そのものを尊重し、症状だけでなく生活全般をサポートする全体的なケアが求められます。
以下で、このケアにおいて重要な4つの基本原則について詳しくお伝えします。
- 共にある
- 行動の了解
- 安定した関係
- タイプ別のケア
順番に見ていきましょう。
出典書籍:筒井書房『自立支援介護ブックレット(3) 認知症ケア』
1.共にある
「共にある」とは、単に医療的な評価をするのではなく、認知症の方と対等な関係性構築を指します。医療関係者や介護職が第三者的な評価をしてしまうと、その人の尊厳が傷つく可能性もあるためです。
医師や看護師、介護職が対等な立場で接すれば、認知症の方は自分を理解されているという安心感が得られます。この「共にある」という考え方は、認知症ケアにおいて最も大切といえるでしょう。
2.行動の了解
認知症の方の行動は、その人の人生経験に基づいています。行動の傾向を理解する姿勢を示せば、ケアの質が向上します。
認知症の方の生涯を考慮すると、その行動が異常ではなく、理解できるものであると気づけるでしょう。行動を理解すると、介護者と認知症の方との関係性がより良いものとなります。
3.安定した関係
認知症の方にとって安定した関係とは、環境が頻繁に変わらないようにすることです。認知症の方は状況の認知力が低下しているため、周囲の変化に過度に反応してしまいます。
たとえば、常に同じスタッフが担当すれば、認知症の方は安心感を得られ、BPSD(周辺症状)の発症が減少する可能性があります。
このように認知症ケアでは、安定した環境を整える意識が重要なのです。
4.タイプ別のケア
認知症の方は一人ひとりで症状が異なるため、そのケアも個々に合わせたものでなくてはなりません。具体的には、認知症ケアのタイプは大きく以下の6つに分けられ、それぞれに独自の対策が必要です。
タイプ | 対策 |
身体不調型 | 水分摂取、食事、排せつ、運動といった基本的な生理的ニーズに焦点を当てます。適切なケアの提供により、身体的なストレスを軽減し、不穏を和らげます |
環境不適応型 | 担当スタッフを1人に固定するなどして、慣れ親しんだ人物との関係構築が有効です。環境の安定が精神的な安定につながります |
知的衰退型 | 現在地や時間、状況などを理解しやすくする手助けをします。たとえば、大きな時計を置く、日々のスケジュールを明示するなどが考えられます |
葛藤型 | 孤独や過度な抑制を感じる認知症の方には、人とのコミュニケーションを促し、抑制されているという感情を緩和するケアが求められます。これにより、ストレスが軽減され、周辺症状が改善される可能性があります |
遊離型 | なんらかの役割や目的の提示が有効です。家事を手伝う、趣味に没頭するなど、認知症の方自身が価値を感じられる活動を提供する働きかけが大切です。 |
回帰型 | 過去に固執する傾向があるこのタイプでは、認知症の方の過去に共感する姿勢が重要です。古い写真を見る、過去の話をするなど、その人の歴史に寄り添うことで安心感が生まれます。 |
以上のように、各タイプに応じたケアが効果的です。これらを踏まえた上で、多角的なアプローチを考え、実践していく姿勢が、より質の高い認知症ケアを実現します。
認知症ケアにおけるパーソンセンタードケアの考え方【5つの視点】
認知症ケアで大切なことの1つとして、認知症の方それぞれが持つ独自のニーズに対応する「パーソンセンタードケア」の理解が挙げられます。
以下で、パーソンセンタードケアの核心となる「5つの視点」について詳しく説明します。
- 1.くつろぎ(Comfort)
- 2.自分が自分であること(Identity)
- 3.結びつき(Attachment)
- 4.たずさわること(Occupation)
- 5.共にあること(Inclusion)
1つずつ内容を見ていきましょう。
参考:認知症介護研究・研修センター『パーソンセンタードケアって何?』
1.くつろぎ(Comfort)
認知症の方が心地よく過ごせる環境を整えていく意識が、認知症ケアでは不可欠です。認知症の方が抱える言い表せない不安感や不快感は、身体的な苦痛だけでなく、心の平穏も奪ってしまいます。
たとえば、長時間車椅子に座ったままだと身体的な痛みを感じやすく、結果として心も不安定になりがちです。また、快適な物理的環境だけでなく、人との良好な交流も心の「くつろぎ」につながるでしょう。
2.自分が自分であること(Identity)
自分自身をしっかり認識するのは、認知症の方にとって非常に重要です。自己同一性の感覚がなくなると、生きる意欲も失われてしまいかねません。
過去の写真を見たり、自分の歴史について話したりする時間を設けて、自分自身を再確認する時間を作ってみましょう。
「自分である」という感覚を維持すれば、心理的な安定を得られるはずです。
3.結びつき(Attachment)
認知症の方が安心感を得るためには、身近な人々や物との「結びつき」が重要です。記憶障害や見当識障害が進行して外部との結びつきが感じられなくなると、疎外感や不安が増してしまいます。
昔からの友人や家族、愛用しているアイテムと触れ合う時間を作れば、安心感を取り戻すケースも多々みられます。このように結びつきを大切にすることで、心の安定と自身の存在意義を感じられるのです。
4.たずさわること(Occupation)
何かに積極的に取り組む「たずさわること」も、認知症の人々にとって大切なニーズです。活動に参加すれば、自信や達成感を感じられます。
たとえば、簡単な家事や庭いじり、手芸や絵を描くなど、能力に応じた活動を提供していく働きかけが有用です。その際、安全かつ積極的に活動できる環境を用意して「あぶないですよ」「気をつけてください」など制止するような関わりは避けましょう。
5.共にあること(Inclusion)
認知症の方と介護者が一緒に過ごす時間は、相互の理解と信頼を深めるきっかけとなります。信頼関係が形成されると、ケアの質も向上し、認知症の方自身も積極性が増します。
一緒に映画を見たり、散歩をしたりするといった時間を共有していくと心が和む瞬間が増え、認知症の方の生活は豊かになるのです。
認知症ケアを無理なく続ける3つのポイント
ここでは、認知症のケアを無理なく続ける3つのポイントを解説します。
- 介護保険サービスをうまく活用する
- 相談できる環境を作る
- 在宅介護が困難になったら施設入所を検討する
介護の負担を軽減させながら、持続的なケアを行っていきましょう。
介護保険サービスをうまく活用する
認知症ケアを無理なく続けるためには、介護保険サービスをうまくしていくのがコツです。
認知症は40歳以上から介護保険の対象となります。介護保険の認定を受けて各サービスの利用条件を満たせば、以下のサービスを活用できるようになります。
サービス | 内容 |
訪問介護 | ホームヘルパーや介護士が自宅に訪問し、食事のサポートやお風呂の介助などの介護をサポートしてもらえる |
通所介護 | 施設に通いながら、レクリエーションへの参加、食事・入浴の介護をしてもらえる |
短期入所生活介護 (ショートステイ) |
短期間施設に入所し、専門的なケアやリハビリが受けられる |
介護者の健康を維持するためには、介護から一時的に離れられる環境も大切です。
介護サービスの種類や利用条件の詳しい情報はこちら
関連記事:地域密着型サービス9種類一覧|利用条件・サービス内容を解説
相談できる環境を作る
認知症ケアを無理なく続けるためには、相談できる環境を作っておくのも大事な取り組みです。
介護は体力的・精神的に負担が大きく、1人で悩みを抱え込むと疲弊してしまいます。以下は認知症の相談ができる場所です。
- 地域の民生委員
- 地域包括支援センター
- 医療機関の相談窓口
- 認知症カフェ
悩みや不安を打ち明けられる環境があれば、介護の精神的負担が減少し、より良いケアを継続できるでしょう。
認知症カフェの詳細はこちら
関連記事:認知症カフェとは?目的・メリット・探し方について詳しく解説
在宅介護が困難になったら施設入所を検討する
認知症の進行により、家での介護が困難なレベルになってしまった場合は、積極的に専門の介護施設への入所を考えましょう。
なかには「親を施設に入れるのは親不孝なのではないか」と悩む方もいるかもしれません。しかし、無理に自宅で介護を続けると、介護者に負担がかかるだけでなく、本人もストレスを感じてしまう可能性があります。
家族全体の健康と幸せを考えて、施設入所の選択肢も積極的に考慮してみてください。
認知症の方が入所できる施設の種類や特徴はこちら
関連記事:認知症でも入居可能な施設はある?【PART2】~認知症でも入れる施設と特徴~
なお、効率よく施設を見つけるためには、介護施設専用の検索サイトを活用するのがおすすめです。条件を指定して検索すれば、候補を絞り込みやすくなります。
どのサイトをチェックすれば良いのか迷ったら、大阪を中心とした高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」をご活用ください。認知症の方が入所可能な施設も多数紹介しています。
認知症ケアで大切なこと【まとめ】
認知症ケアで大切なことは、認知症の方だけでなく、その家族にも焦点を当てる全体的なケアです。心と体、両方に対する理解とアプローチが必要であり、そのために4原則とパーソンセンタードケアの5つの視点が有用です。
最後に、認知症ケアが成功するためには、多角的な視点と柔軟な対応が必要です。知識を深め、適切なケアを提供し、認知症の方とその家族の生活の質を高めましょう。
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この記事の監修者
いいケアネット事務局
突然倒れた、転んで頭を打ったなど、ご自身やご家族の介護を身近に感じるきっかけはそれぞれです。 いいケアネットでは、いざという時のために役立つ介護の知識や介護施設についてご紹介します。