「噛む力や飲み込む力が弱まった高齢者向けの介護食を考えるにしても、レパートリーに困っている」と悩んでいませんか。
本記事では、高齢者向けの柔らかい料理で、かつ栄養のある食べ物のレシピを紹介しています。
また、レシピに入る前に高齢者にとって柔らかい料理を提供する状況になっている理由や調理のポイントなどを解説します
在宅介護に限界を感じている方や介護の専門家が取り入れているポイントやレシピなどを参考にしたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
大阪を中心に、多数の高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」では、老人ホームに関する疑問やそれにまつわる情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中です。
そもそも高齢者の噛む力が弱まるとどうなるの?
高齢者の噛む力が弱まると、食べられる料理が限られてしまうため、低栄養になりがちです。
また、むせる回数が増えたり食事自体が疲れやすくなったりする嚥下(えんげ)障害の発生リスクを高めてしまいます。
ここからは嚥下障害について深掘りしつつ、高齢者が柔らかい料理を必要とするようになる原因などを解説していきます。
嚥下障害が発生しやすい
高齢者が噛む力が弱まると、食べ物や飲み物をスムーズに飲み込むのが難しくなる嚥下障害が発生しやすくなります。
嚥下障害は誤嚥性肺炎に発展するリスクがあるため、在宅介護をしている家庭ではとくに、介護食に気を遣わなければいけません。
嚥下障害は食事の楽しみを奪うだけでなく、栄養摂取に影響を及ぼし、体力の低下や免疫力の低下を招く可能性があります。
また、固形物を控えた料理の提供になるため食事のバリエーションが減り、食事自体が単調になりがちです。
高齢者にとって、食事に対する意欲が低下する事態になり、栄養不足に陥る危険性もあります。
関連記事:大人の食べこぼしの原因は?嚥下(えんげ)障害の症状や対処法も解説
柔らかい料理が必要になる原因
高齢者が柔らかい料理を必要とする原因は、加齢による身体の変化が大きくかかわっています。年齢を重ねると噛む力を弱め、硬い食べ物を食べる際に不快感や痛みを伴う場合があります。
また、唾液の分泌が加齢により減少するのも、食べ物を飲み込む際の困難さを増す一因です。唾液は食物を湿らせ、口内での移動を助ける重要な役割を果たしています。
しかし唾液の量が減少すると、食べ物が口内で十分に処理されず、飲み込みづらくなります。つまり高齢者は、噛む力や飲み込む力の低下にともない、柔らかい料理が必要になるのです。
関連記事:高齢者が食べられないときに食欲を回復する方法!食欲不振の原因や対策法を解説
柔らかい料理を意識しすぎた低栄養な料理には要注意!
高齢者の食事において柔らかさを重視するのは重要ですが、栄養が偏った料理を提供してしまうと健康を損なう危険性があります。
柔らかい料理を作る際、つい食感や飲み込みやすさを重視した結果、栄養価が不足しないようなレシピを考えなければいけません。
しかし高齢者によっては食事に対するストレスや薬の副作用が関係している可能性もあります。
高齢者に柔らかい料理を提供する前に、普段の食事で違和感がないかを見ておくのがおすすめです。
なお、柔らかくて栄養のある食べ物のおすすめレシピは、本記事の後半で紹介しています。
柔らかさを重視するあまり、栄養が欠けてないよう、日々の食事作りでは栄養素のバランスを意識し、健康維持につなげていきましょう。
高齢者に柔らかい料理を作る上でのポイント
高齢者に柔らかい料理を作る際、ただ単に柔らかさを重視するのではなく、以下のポイントに気をつけながら調理しましょう。
- 細かく切って調理する
- とろみをつけて誤嚥を防ぐ
- 繊維の断ち切りを意識する
- 季節感ある彩りを意識する
本記事の後半で紹介するレシピ以外でも、柔らかい料理を提供しながら栄養価も留意できるよう、順番に解説していきます。
細かく切って調理す
高齢者向けの柔らかい料理を提供する際、噛む力が弱まっているのを考慮し、食材を細かく切る調理法は重要ポイントです。
細かく切ると、食べ物が口の中でより簡単に分解され、消化にも優しくなります。
たとえば、肉や野菜を一口大よりさらに小さく切れば、噛む力が弱まっている方でも無理なく食事を楽しめます。
ただし、食材を細かく切りすぎると、舌を動かしにくい高齢者にとってストレスを与えてしまうため注意が必要です。
とろみをつけて誤嚥を防ぐ
高齢者に柔らかい料理を提供する上で、嚥下機能の低下を考慮して「とろみ」をつけるのを意識するのがおすすめです。
たとえば細かく切った食材や食材自体が小さい場合、誤嚥につながり誤嚥性肺炎へと発展してしまう可能性があります。
嚥下機能の低下により誤嚥性肺炎になると、命の危険性があるため、柔らかい料理を意識しすぎた細かすぎる料理は避けるべきです。
一粒が小さい食材を扱った料理の場合、誤嚥を防ぐにはとろみをつけて飲み込みやすくする調理方法を採用しましょう。
繊維の断ち切りを意識する
繊維が多いごぼうやにんじんのような食材を扱う場合、繊維を断ち切るイメージで包丁を入れるのがおすすめです。
ごぼうやにんじんは繊維が多いため、食材が硬く咀しゃくしにくい食材です。
繊維が多い食材の場合、繊維を断ち切るイメージで切り込みを入れたり、一度茹でてから炒めたりすると柔らかくなります。
噛み切りにくい肉を扱うケースでも同様、隠し包丁を入れたり切り込みを入れたりするのもおすすめです。
とくに肉料理が好きな高齢者に向けた柔らかい料理を作りたい場合、つみれにするのも口の中でまとまりやすくためおすすめの選択肢になります。
季節感ある彩りを意識する
高齢者向けに柔らかい料理を意識しすぎると扱う食材が偏ってしまうため、季節感も意識しましょう。
季節感を意識すると旬の食材を扱うことになり、旬の野菜は味だけでなく栄養価が高い傾向にあります。
11月から2月にかけてが旬の野菜であるほうれん草のビタミンCでたとえると、最小値と最大値では以下の差があるのがわかっています。
- 最小値:約20mg(9月)
- 最大値:約80mg(12月)
ほうれん草の旬である冬と、旬ではない夏でビタミンCの数値を比較すると、約4倍の差があるのです。
季節感を意識するのは、栄養価の高い食材を扱えるようになります。
「どの食材にしよう」と悩む手間が省けるだけでなく、野菜によって異なる色合いから、彩りのある食卓に変えてくれるのです。
インターネットで「野菜 旬 一覧」「野菜 旬 カレンダー」などのキーワードで検索すると、旬の時期を各企業が掲載してくれています。
参考:独立行政法人農畜産業振興機構「野菜の旬と栄養価 ~旬を知り、豊かな食卓を」
関連記事:味良し、見た目良しの介護食「海商のやわらかシリーズ」、新たな販路開拓も視野に―海商
【種類別】高齢者向け|柔らかくて栄養のある食べ物のレシピ一覧
ここからは、種類別で高齢者向けの柔らかい料理で、かつ栄養のある食べ物を扱ったレシピの一覧を紹介します。
- 主食・ご飯もの
さんま蒲焼き丼
きんぴらのチャーハン
- 主菜・副菜・肉・魚などのおかず
簡単ミートグラタン
サバじゃが
トマトと卵のふわふわ炒め
かぼちゃの甘辛バター炒め
上記の項目で当メディアがおすすめする柔らかい料理を紹介していくので、献立選びの参考にしてください。
主食・ご飯もの
さんま蒲焼き丼
【材料と分量(1人分)】
ご飯:茶碗中1杯(約150g)
さんまの蒲焼き(缶詰):50g
ほうれん草:35g
紅しょうが:少々(約3g)
みりん:大さじ1(約16g)
しょう油:小さじ1/2(約3g)
もみ海苔:1/4枚(約0.5g)
【作り方】
- ほうれん草を茹でて、食べやすい大きさに切っておきます。
- フライパンにみりんを入れ、火にかけます。沸騰したら、さんまの蒲焼きを缶汁ごと加え、軽く温めます。
- 器にご飯を盛り付け、もみ海苔を散らしてから、温めたさんまの蒲焼きをのせます。
- フライパンに残ったタレにしょう油を加え、ほうれん草を絡め、器に盛り付けます。
- 仕上げに残ったタレを全体にかけ、紅しょうがをトッピングします。
きんぴらのチャーハン
【材料・分量(1人分)】
ご飯:茶碗中1杯(約150g)
市販のきんぴらごぼう:30g
塩:0.5g
しょう油:小さじ1/2(約3g)
油:大さじ1(約12g)
万能ねぎ:2本(約15g)
白ごま:小さじ1(約3g)
【作り方】
- 市販のきんぴらごぼうを細かく刻んで準備します。
- フライパンを中火で熱し、油を入れます。刻んだきんぴらごぼうとご飯を加え、さらに塩と醤油で味付けをしながら全体を炒めます。
- 器に炒めたご飯を盛り付け、仕上げに小口切りにした万能ねぎと白ごまを振りかけて完成です。
主菜・副菜・肉・魚などのおかず
簡単ミートグラタン
【材料・分量(1人分)】
ミートソース(レトルト):40グラム
冷凍ポテト:60g(約6本)
ウインナー:30g(約3本)
サラダ油:小さじ1強(約5g)
冷凍ブロッコリー:40g(4房)
牛乳:大さじ2(30ml)
粉チーズ:小さじ1/4(約1g)
【作り方】
- ウインナーを薄く輪切りにし、冷凍ポテトと共にサラダ油で軽く炒めた後、トースターでこんがりと焼き色を付けます。
- 冷凍ブロッコリーを柔らかくなるまで下茹でしておきます。
- ホイルを器の形に整え、1のウインナーとポテト、2のブロッコリーを入れます。そこに牛乳を注ぎ、味を調えた後、ミートソースを全体にかけます。
- 仕上げに粉チーズを振りかけ、トースターで再度焼いて完成です。
サバじゃが
【材料・分量(1人分)】
サバの味噌煮缶:半分(50g)
じゃがいも:小さめ1個(90g)
玉ねぎ:1/4個(30g)
にんじん:1/6本(30g)
【作り方】
- 玉ねぎは薄くスライスし、じゃがいもと人参は食べやすい大きさにカットします。
- 鍋にサバの味噌煮缶を汁ごと入れ、同量の水を加えます。
- 準備した野菜を鍋に加え、火にかけます。
- 沸騰してきたら軽くかき混ぜ、野菜が柔らかくなるまで弱火で10〜15分ほど煮込んで完成です。
トマトと卵のふわふわ炒め
【材料・分量(1人分)】
トマト:小ぶりのものを1個(約90g)
卵:1個(約50g)
長ねぎ:6分の1本(約15g)
木くらげ(乾燥):0.5g
油:大さじ1/2(約6g)
<合わせ調味料>
中華スープの素:小さじ1/8(約0.3g)
水:大さじ1(約15g)
酒:小さじ1(約5g)
しょう油:小さじ1/5(約1.2g)
塩:小さじ1/6(約1g)
こしょう:少々
片栗粉:小さじ1/4(約0.75g)
【作り方】
- トマトはくし形にカットし、長ねぎは細かく刻みます。
- 木くらげはぬるま湯に浸して戻し、石づきを取り除いた後、食べやすい大きさに切ります。
- フライパンに油を入れて温め、溶き卵を加えて軽く炒め、半熟状態にします。
- 木くらげとトマトを加えてさらに炒め合わせ、最後に合わせ調味料と長ねぎを入れてしっかりと混ぜたら完成です。
かぼちゃの甘辛バター炒め
【材料・分量(1人分)】
かぼちゃ:約12分の1個(100g)
砂糖:小さじ1(3g)
しょう油:小さじ1/2(3g)
バター:小さじ1強(5g)
塩:少々
【作り方】
- かぼちゃのわたと種を取り除き、皮をところどころ剥いて1.5センチ角にカットします。
- 耐熱ボウルにかぼちゃを入れラップをかけ、電子レンジで約1分半加熱します。取り出したら1分ほどそのまま蒸らし、上下を返してさらに1分加熱します。
- フォークを使ってかぼちゃを軽く潰し、砂糖、醤油、バターを加えて全体を混ぜ合わせます。味を見て、必要であれば塩を少々加えて調整してください。
高齢者に柔らかい料理を提供して介護の質を高めよう!【まとめ】
高齢者に柔らかい料理を提供するのは、健康と生活の質を向上させるために重要です。
噛む力や嚥下機能が低下していると、食事が不快で困難になるだけでなく、栄養不足のリスクも高まります。
柔らかい料理を工夫して提供すれば、食事を楽しみながら、必要な栄養素をしっかりと摂取できる環境を整えられます。
食材を細かく切ったり、繊維を断ち切ったりして、食べやすさを向上させましょう。
また、とろみを加えて誤嚥を防止しつつ、季節感のある彩りを意識すると、見た目でも食欲を引き立てられるのでおすすめです。
ぜひ、これを機に柔らかい料理のレパートリーを増やし、日々の食事に取り入れてみてください。
大阪を中心に、多数の高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」では、老人ホームに関する疑問やそれにまつわる情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中です。
関連記事:スマイルケア食とは?介護食で活用するための適切な選び方など解説
監修者 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長会 斉藤 正行
一般社団法人全国介護事業者連盟理事長。立命館大学卒業後、複数の介護関連企業で要職を歴任し、日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。講演活動やメディア出演も多数。