療養病床とは、急性期の治療を終えたものの、引き続き長期的な医療とケアが必要な患者さんのための施設です。この記事では、療養病床の基本的な役割から、病院内での位置づけや種類、具体的な入院条件について解説します。
また、しばしば比較される介護医療院との違いにも触れ、ご家族にとって最適な選択をするための情報を提供します。
療養病床とは、長期的な医療とケアを提供する施設のこと

療養病床は、病状が安定した患者に対し、長期にわたる医療的ケアと療養上の管理を提供する病床を指します。その定義と目的は、急性期の治療を終えた後も、医療依存度が高く在宅での生活が困難な方が、医師の管理下で継続的な医療を受けながら安心して長期入院できる環境を整えることにあります。
主な機能として、医療ケアの提供、身体機能の維持を目的としたリハビリ、日常生活の支援が挙げられます。
医療法で定められた5種類の病床のひとつ
日本の病院に設置される病床は、医療法によって5つの種類に区分されています。療養病床は、急な病気や怪我の治療を行う「一般病床」、精神疾患の治療を目的とする「精神病床」、結核患者のための「結核病床」、感染症のまん延を防ぐ「感染症病床」と並ぶ、病床区分の一つです。
厚生労働省の調査によると、これらの病床の数は社会の医療ニーズの変化に応じて変動しており、高齢化の進展に伴い療養病床が果たす役割は大きくなっています。
急性期を脱した患者さんが療養に専念する役割
療養病床が担う中心的な役割は、急性期の治療を終えて病状が安定した患者さんを受け入れることです。手術や集中的な薬物治療などが必要な段階を過ぎた後も、医療的な管理やケアが欠かせない方は少なくありません。
そうした患者さんが、在宅復帰や他の施設へ移るまでの期間、医学的管理のもとで心身の回復を図り、療養に専念するための環境を提供します。治療の場であると同時に、生活の場としての側面も持っています。
療養病床に入院するための条件

療養病床への入院は、誰でも希望すればできるわけではなく、特定の基準を満たす必要があります。入院の対象となるのは、病状が安定的でありながらも、医学的な管理や処置が継続的に必要な患者さんです。
具体的には、厚生労働省が定める「医療区分」と「ADL区分」という2つの指標を用いて、入院の必要性が判断される仕組みになっています。
入院対象となる患者さんの具体的な状態
入院の対象者となるのは、主に65歳以上で、医療区分2または3に該当する方です。具体的な例としては、中心静脈栄養や気管切開の管理、酸素療法、褥瘡の専門的な処置が必要な状態などが挙げられます。
これらの医療的な必要性に加え、ADL区分も考慮され、介護の必要度が高い方が優先されます。病状は安定しているものの、常に医療的なケアを必要とする方が主な対象となります。
療養病床の入院期間はどのくらい?
療養病床の入院期間に法律上の明確な上限はありませんが、無期限に入院できるわけではありません。一般的には、3ヶ月(90日)ごとに入院継続の必要性が評価されます。この評価に基づき、病状が改善すれば在宅復帰や介護施設への退院が検討されます。
一方で、医療的な必要性が継続していると判断されれば、入院は継続となります。あくまで患者の状態に応じて期間は変動するため、長期にわたることもありますが、最終的な目標は適切な次への移行とされています。
療養病床で受けられるサービス内容

療養病床では、長期にわたる療養生活を支えるための多様なサービスが提供されます。その最大の特徴は、医療機関としての機能に基づいた手厚い医療ケアが受けられる点です。
それに加えて、身体機能の維持を目指すリハビリテーションや、食事・入浴といった日常生活全般の支援も行われ、医療と介護の両面から患者さんをサポートする体制が整えられています。
医師や看護師による継続的な医療ケア
療養病床では、医師の管理のもと、看護師による24時間体制の医療ケアが提供されます。療養病床の看護師配置基準は「患者20人に対して1人以上」と定められており、手厚い看護体制が特徴です。
日常的な健康管理、点滴や経管栄養の管理、痰の吸引、褥瘡の処置といった専門的な医療行為が行われます。急な体調変化にも迅速に対応できるため、医療依存度の高い患者さんやそのご家族にとって安心できる環境が保証されています。
身体機能の維持を目的としたリハビリテーション
療養病床におけるリハビリテーションは、身体機能の回復を目指す急性期のリハビリとは異なり、現在の身体機能をできるだけ維持し、寝たきり状態を防ぐことを主な目的としています。
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった専門職が患者一人ひとりの状態に合わせて計画を立て、関節の動きを保つ訓練や、飲み込みの機能(嚥下機能)を維持するためのリハビリなどを実施します。
生活の質を保つ上で重要な役割を果たします。
食事や入浴といった日常生活の支援
療養病床では、看護職員や介護職員が協力し、食事、入浴、排泄、着替えといった日常生活全般の介助を行います。食事は患者の病状や嚥下機能に合わせた形態で提供され、必要に応じて食事介助も行われます。
また、清潔を保つための入浴介助や口腔ケアなども、患者の状態に応じてきめ細かく実施されます。医療的なケアと一体となった手厚い看護体制のもと、安心して日々の生活を送ることができます。
療養病床への入院で発生する費用の内訳

療養病床への入院にかかる費用は、医療保険が適用される部分と、全額自己負担となる部分で構成されています。医療費については医療保険が適用されますが、食費や居住費、その他の日用品費などは自己負担となります。
長期の入院になることが多いため、患者や家族はあらかじめ費用の内訳を理解し、資金計画を立てておくことが求められます。
自己負担となる医療費・食費・居住費について
自己負担となる費用の主な内訳は、医療費の一部負担金、食費、居住費の3つです。医療費は年齢や所得に応じた割合(1割〜3割)を負担します。
食費と居住費は、長期入院と在宅療養との公平性を図る観点から自己負担とされており、国が定めた標準負担額が基準となります。ただし、所得や資産が一定以下の場合は負担軽減措置が適用されることがあります。その他、おむつ代や日用品費などが別途必要になるケースも考えられます。
費用負担を軽減できる高額療養費制度の活用
医療費の自己負担額が家計の大きな負担とならないよう、高額療養費制度を利用できます。この制度は、1ヶ月間の医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超過分が払い戻される仕組みです。
厚生労働省によって定められたこの制度を活用することで、長期入院に伴う経済的な負担を大幅に軽減することが可能です。申請手続きが必要なため、入院先の病院の相談員や、加入している公的医療保険の窓口に確認するとよいでしょう。
【比較】療養病床と介護医療院は何が違う?

長期療養の選択肢として、療養病床とともに名前が挙がるのが「介護医療院」です。どちらも医療と介護のケアを提供する点で似ていますが、その根拠法や目的、サービス内容には明確な違いが存在します。
患者さんやご家族が本人に最も適した施設を選ぶためには、両者の相違点を正しく理解しておくことが重要です。
設置根拠となる法律と施設の目的の違い
両者の最も大きな違いは、設置根拠となる法律です。療養病床は医療法に基づく「病院」の一部であり、主目的は医療の提供にあります。一方、介護医療院は介護保険法に基づく施設で、「医療」「介護」「生活の場」という3つの機能を兼ね備えています。
かつて療養病床には医療保険適用の医療療養病床と介護保険適用の介護療養病床がありましたが、後者は2024年3月末で廃止され、介護医療院などへの転換が進められています。
入所条件や受けられるサービス内容の違い
入所条件にも違いがあります。医療療養病床への入院条件は、医療区分という医療の必要度によって判断されるのに対し、介護医療院の対象者は要介護認定を受けていることが前提となります。そのため、療養病床はより医療依存度の高い患者が中心です。
提供されるサービス内容も異なり、介護医療院ではレクリエーションや看取りといった「生活の場」としての機能が療養病床に比べて充実している傾向にあります。この違いから、どちらが適しているかは本人の状態によって変わってきます。
後悔しないための療養病床の選び方

長期にわたる療養生活の場となる療養病床を持つ病院を選ぶ際は、後悔のないよう慎重な検討が求められます。施設の設備や人員体制といったハード面だけでなく、そこで提供されるケアの質や雰囲気といったソフト面も重要な判断基準になります。
本人や家族が何を重視するのかを明確にし、複数の施設を比較検討することが、納得のいく選択につながります。
施設を見学する際に確認すべきポイント
施設を見学する際は、いくつかのポイントを確認することが重要です。まず、施設全体の清潔さや整理整頓の状況、日当たりの良さなど療養環境をチェックします。次に、スタッフと患者さんがどのように接しているか、施設の雰囲気が明るいかなどを観察します。
リハビリテーション室の設備や実際の活動内容、食事のメニューや形態なども確認したい点です。また、施設の医療機能の特徴や看取りに対する方針など、家族の希望と合致するかを具体的に質問することも大切です。
入院までの流れと必要な手続き
療養病床への入院を希望する場合、まずは現在入院している病院の医療ソーシャルワーカーや、かかりつけ医に相談するのが一般的です。そこから、本人の状態に適した療養病床を持つ病院を紹介してもらいます。
次に、紹介先の病院に診療情報提供書などの書類を提出し、書類選考や本人・家族との面談を経て入院の可否が決定されます。入院が決まれば、契約手続きを行い、入院日を調整するという流れになります。すぐに入院できない場合もあるため、早めに情報収集を始めることが大切です。
まとめ

療養病床は、急性期治療を終えた後も継続的な医療管理が必要な患者さんのための重要な受け皿です。現在は医療保険が適用される医療療養病床がその役割を担っており、かつて存在した介護療養病床は介護医療院などへの転換が進んでいます。
施設によって特徴や提供されるサービスは異なるため、入院を検討する際は、施設の機能や費用、環境などを総合的に比較し、本人や家族が何を最も重視するのかを明確にした上で、最適な場所を選択することが求められます。
大阪を中心に、多数の高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」では、老人ホームに関する疑問やまつわる情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中です。
監修者 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長会 斉藤 正行
一般社団法人全国介護事業者連盟理事長。立命館大学卒業後、複数の介護関連企業で要職を歴任し、日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。講演活動やメディア出演も多数。






