「70代になる父親が怒りやすくなった」
「何が原因なのだろうか」
「怒りやすくなった父親への対処法を知りたい」
このような疑問や悩みを抱えていませんか。
70代以降の高齢者が怒りやすくなった原因は、加齢や病気などが考えられます。対処法は、否定せずに話を聴く、距離を取る、もしくは専門家に相談するなどさまざまです。
この記事では、父親が怒りやすくなったときに考えられる原因や対処法、原因を調べられる医療機関について紹介します。
記事を読むことで、父親や母親など、周りの高齢者が怒りやすくなったときに適切な対処ができるようになります。ぜひ最後までご覧ください。
父親が怒りやすくなったときに考えられる原因【70代高齢者】
自分の父親や母親など、70代以降の高齢者が怒りやすくなったときに考えられる原因は、主に以下の2つです。
- 加齢によるもの
- 病気によるもの
それぞれ説明していきます。
加齢によるもの
怒りやすくなった原因のうち、加齢と関係するものは主に以下の3つです。
- 脳機能の低下
- 聴力低下とリクルートメント現象
- 男性ホルモンの減少
それぞれ詳しく解説していきます。
脳機能の低下
年を重ねると脳が少しずつ萎縮するようになり、機能も低下していきます。
とくに、前頭葉と呼ばれる部分は、加齢による萎縮および機能の低下が目立つとされる場所です。(文献1)
前頭葉とは文字どおり頭の前側部分であり、思考力や判断力、感情のコントロールといった、人間らしさに関係する機能を担う場所です。
前頭葉の萎縮により機能が低下すると、感情のコントロールが効きにくくなり、少しのことで怒りやすくなります。
また前頭葉の損傷や機能低下により、人格の変化が見られる場合があります。(文献2)
「もともと穏やかな方が、年を重ねるにつれて怒りやすくなった」場合、前頭葉が影響している可能性が高いといえるでしょう。
聴力低下とリクルートメント現象
聴力低下による「リクルートメント現象」も、怒りやすくなる原因の1つです。
リクルートメント現象とは、小さな音は聴こえにくいものの、ある程度の大きさになると急に聴こえてくるものです。(文献3)
この影響で、急に周りの音や声が聴こえ始め、うるさいと感じて怒る方も少なくありません。
男性ホルモンの低下
テストステロンと呼ばれる男性ホルモンの低下も、父親が怒りやすくなった原因としてあげられます。
テストステロンには筋肉や骨を作り出す、性機能を維持するといった働きがありますが、脳の認知機能や心理機能にも関連しています。(文献4)
テストステロン低下による主な精神・心理症状を以下に示しました。
- 不安
- ゆううつ
- イライラ
- 情緒不安定
テストステロンが低下する原因としては、加齢やストレスなどがあります。
年を取ると少しのことでイライラしたり、情緒不安定になったりして怒りやすくなるのは、そのためです。
病気によるもの
自分の父親を含む高齢者が怒りやすくなった場合、以下の病気が原因であると考えられます。
- 認知症
- 脳血管疾患
- 精神疾患
それぞれ解説していきます。
認知症
認知症の初期症状としてあげられるのが、「易怒性(いどせい)」です。
易怒性の具体的な状況を以下に示しました。
- 少しのことで怒りやすくなる
- 周りの人を威嚇するように大声をあげる
- 暴力をふるおうとする
易怒性のため、今まで穏やかだった方が怒りやすくなったのを目にして「人が変わったようだ」と戸惑う方も少なくありません。
認知症の方が怒りやすくなる原因としては、以下のようなこともあげられます。
- 感情のコントロールが難しくなるため
- 周囲の状況を理解できなくなるため
- 自分の気持ちをうまく表現できなくなるため
- 「認知症で何もできなくなった」という周囲の誤解で自尊心が傷つけられるため
認知症の進行を遅らせる薬や、それ以外の薬の副作用も関係しているといわれます。
高齢者は薬の副作用が出やすいだけではなく、副作用が重症化しやすい状況です。(文献5)
「新しい薬を飲み始めてから怒りやすくなった」というように、薬との関係が気になる方は、かかりつけの医師や薬剤師に相談しましょう。
認知症について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:
認知症について詳しく解説!【PART1】~認知症と物忘れの違い・初期症状チェックリスト
認知症について詳しく解説!【PART2】~認知症の種類・症状について~
認知症について詳しく解説!【PART3】~認知症に関する相談先まとめ~
脳血管疾患
脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患により、感情が抑えられなくなるケースがあります。
その1つが、「感情失禁」です。
感情失禁は、脳の損傷後に出現するもので、ささいな刺激によって笑う、怒る、泣くなどの反応が誘発される現象です。(文献6)
全般的な脳機能の低下が原因であるとされています。
もう1つが、「高次脳機能障害」です
高次脳機能障害は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血、頭部の外傷などによる脳の損傷が原因の障害です。
症状の1つに、感情コントロールの低下があります。
このため、急に怒りだす、泣き出す、暴れだすといった状況が引き起こされるのです。
「脱抑制」という現象も関係しています。
脱抑制とは、感情や行動のコントロールができずに、その場にそぐわない言動をすることです。(文献7)
精神疾患
精神疾患の1つである老人性うつ病の症状として、怒りっぽさも含まれる場合があります。
うつ病を引き起こす原因の1つとして考えられるのが、「セロトニン」というホルモンの減少です。
セロトニンは幸せホルモンと呼ばれるもので、精神や感情を穏やかに保つ働きがあります。
セロトニンの減少は、感情コントロール低下を引き起こすため、うつ病の方は気持ちが落ち込みやすくなる反面、怒りやすくなるのです。
いわゆる「キレやすくなる」といった状況とも関係するとされています。
老人性うつについては、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:老人性うつの場合どうすれば良いの?症状や認知症との違いなどを解説
70代の自分の親が怒りやすくなったときの対処法
自分の親が怒りやすくなったとき、どのように対処すると良いのかわからない方も少なくありません。
対処法としてあげられるのは、主に以下の3つです。
- 否定せずに話を聴く
- 物理的に距離を取る
- 専門家に相談する
それぞれ解説していきます。
否定せずに話を聴く
怒りの感情を否定したり、自分自身も怒りで対応したりすると、逆に親の怒りが増してしまいます。
「でも」、「だけど」といった否定的な言葉は使わずに対応しましょう。
このとき、「なぜ怒っているの」と尋ねるのもおすすめできません。
親も怒りの原因がわからない場合が多いためです。
そのため、尋ねられてもうまく答えられずに、さらに怒りを募らせる場合もあるでしょう。
冷静になって、親の怒りを受け止めることが必要です。
ただし、親の怒りを受け止め続けるのは、子どもにとってかなりのストレスです。
自分自身のストレス解消のためにも、他の家族や信頼できる友人などに話を聴いてもらいましょう。
物理的に距離を取る
ひどい暴言や暴力などがある場合は、物理的な距離も必要です。
親も興奮しており、寄り添いや共感の思いが伝わらない場合もあるからです。
このようなときは、ナイフやはさみ、包丁など危険なものを取り除いた上で、親から少し離れた場所に移動しましょう。
具体的な行動としては、トイレや自分の寝室に行くなどがあげられます。
親の暴言や暴力的行動が静まったら、元の場所に戻り、ゆっくりと話を聴きましょう。
専門家に相談する
家族だけでの対処が難しい場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターの職員など、医療・介護・福祉の専門家に相談しましょう。
親が怒りやすくなっているときの望ましい対応や、逆に避けた方が良い対応についてアドバイスを得られます。
怒りやすくなった親に関するストレスについても、相談すると良いでしょう。
父親が怒りやすくなった原因を調べられる医療機関
父親が怒りやすくなった原因を調べられる医療機関としてあげられるのは、主に以下の3つです。
- かかりつけ医療機関
- 精神神経科
- 脳神経外科
それぞれ解説していきます。
かかりつけ医療機関
最初にかかりつけ医を受診して相談してみましょう。
かかりつけ医は、本人の心身の状況を一番把握しています。
かかりつけ医に相談した結果、認知症や精神疾患、脳血管疾患などなんらかの病気があると考えられる場合には、紹介状を書いてもらいましょう。
紹介状を持参すると、専門医療機関への受診もスムーズになります。
精神神経科
怒りやすくなったことに加えて、物忘れがある、時間や場所がわからなくなる、気持ちの落ち込みといった症状がある場合は、精神神経科が選択肢となります。
これらは、認知症や精神疾患の症状と考えられるためです。
もしかしたら認知症ではないかと気になる場合は、認知症専門医がいる医療機関が望ましいでしょう。
認知症専門医がいる医療機関は、日本認知症学会のホームページ内「専門医・施設を検索」で調べられます。
脳神経外科
脳神経外科も、怒りやすさの原因を調べるための選択肢になります。
怒りやすくなったことに加えて、身体の動きにくさや、話しにくさが見られる場合は、脳神経外科を受診しましょう。
脳のCT検査やMRI検査などを通じて、脳血管疾患や脳の萎縮などを調べられます。
認知症の中には、脳血管疾患が原因になっているものもあります。
認知症の進行を抑えるためにも、原因の疾患を早期に治療しましょう。
高齢者が拒否せず医療機関を受診する方法
親に医療機関受診をすすめても、「自分は大丈夫だ」「病気じゃない」と言って拒否するケースも少なくありません。
ここでは、高齢者が拒否せずに医療機関を受診できるための方法を紹介します。
ポイントは主に3つです。
- かかりつけ医に相談する
- 健康診断を提案する
- 地域包括支援センターに相談する
それぞれ解説していきます。
かかりつけ医に相談する
比較的スムーズな方法は、かかりつけ医に相談してから専門医につなげる流れです。
かかりつけ医への受診は、高齢者にとってもなじみの行動なので、抵抗は少ないでしょう。
家族が専門医受診をすすめて拒否する場合でも、医師のすすめで、受け入れるケースも数多くあります。
健康診断を提案する
健康診断や脳ドックの形で医療機関受診をすすめるのも、1つの方法です。
ただし、病院受診時に「認知症の検査」「怒りっぽくなった原因を調べる」などと説明されると、本人は「だまされた」と思い、怒りが強くなる可能性もあります。
健康診断として病院を受診する場合は、医療機関に事前に相談しておきましょう。
医療機関への伝え方としては、以下のようなパターンがあります。
- 本人に対しては、あくまでも健康診断であるスタンスを取ってほしい
- 認知症や物忘れなどの言葉は使わずに対応してほしい
親のプライドを傷つけない形で、病院受診につなげましょう。
地域包括支援センターに相談する
地域包括支援センターは、高齢者の介護福祉に関する総合相談窓口です。
「親が怒りっぽくなった」「認知症やその他の病気が心配」といった相談にも対応可能です。
精神神経科や脳神経外科といった専門医療機関についても把握しています。
地域包括支援センターの特徴は、保健師や主任ケアマネジャー、社会福祉士といった専門家が在籍している点です。
第三者、かつ専門家からの助言であれば、親も受診に同意する可能性が高いでしょう。
地域包括支援センターについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:高齢者とその家族をサポートする地域包括支援センターとは
まとめ|70代の父親が怒りやすくなったときは原因を調べた上で対処しよう
70代の父親が怒りやすくなったときの原因は、加齢の影響やさまざまな病気などです。
考えられる病気としては、認知症や精神疾患、脳血管疾患などがあげられます。
否定せずに受け入れる、危険なときには距離を取るなどの対処法を試しつつ、原因を知るために医療機関を受診しましょう。
かかりつけ医療機関を受診し、怒りやすいことを相談すると、専門医への受診がスムーズになるでしょう。
地域包括支援センターも、病院受診や家族の対応について相談を受付けている窓口です。
親が怒りやすくなってお困りの方は、一度相談してみてはいかがでしょうか。
大阪を中心に、多数の高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」では、老人ホームに関する疑問やそれにまつわる情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中!
70代の父親が怒りやすくなったことに関するよくある質問
高齢者が怒りやすくなるのはよくあることなのでしょうか?
高齢者が怒りやすくなるのは、珍しくありません。
主な原因としてあげられるのは、以下のとおりです。
- 加齢による心身の変化
- 認知症
- 脳血管疾患
- 精神疾患
聴覚の低下が関連しているケースもあります。
自分の父親が怒りやすくなりました。病院を受診する方が良いでしょうか?
可能であれば、医療機関の受診が望ましいでしょう。
父親や母親が怒りやすくなった原因には、認知症や精神疾患といった病気も含まれるためです。
まずはかかりつけ医に相談しましょう。
なんらかの病気があるとわかれば、症状の改善や悪化防止に向けた治療を受けられます。
怒りやすくなった父親や母親に対して、家族がどのように対処すると良いかの説明を受けられる場合もあります。
参考文献
(文献1)
公益財団法人長寿科学振興財団 「脳の形態の変化」健康長寿ネット, 2022年6月8日
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/nou-keitai.html
(文献2)
前島伸一郎ほか.「前頭葉損傷による高次脳機能障害のみかた」『高次脳機能研究』32(1), pp.21-28,2012 年3月31日
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/32/1/32_21/_pdf
(文献3)
佐藤洋,佐藤逸人.「加齢による聴覚特性の変化を考慮した音声案内」
『日本音響学会誌』73(5),pp.319-323 2017年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/73/5/73_319/_pdf
(文献4)
公益財団法人長寿科学振興財団「老いとジェンダー 性差医療男女の更年期障害」Aging & Health(エイジング&ヘルス),No89 第28巻第1号, 2019年4月
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/pdf/Aging%26Health_No.89_light.pdf
(文献5)
日本医療研究開発機構研究費「高齢者の多剤処方見直しのための医師・薬剤師連携ガイド作成に関する研究」研究班 日本老年薬学会 日本老年医学会, 2016年10月25日
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20161117_01_01.pdf
(文献6)
千草篤麿,近澤明莉.研究論文「不安な表情の多い高齢者への介護福祉士の関わり」
-特別養護老人ホームにおける介護実践より-
『高田短期大学 令和元年度 紀要「介護・福祉研究」』第6号, pp.1-11,2020年
https://www.takada-jc.ac.jp/files/campus/fukushi/r01kiyou-01.pdf
(文献7)
東京都心身障害者福祉センター 高次脳機能障害者地域支援ハンドブック (改訂第六版)
第2章 高次脳機能障害の基礎知識(2/3)2023年3月
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/2022handbook-2shou-2

この記事の監修者
いいケアネット事務局
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