特別養護老人ホーム(以下、特養)に入居する人のなかには、「特養に入ったけど、住所変更は必要なのか」「住所変更しないとどうなるのか」と不安に思っている人も多いのではないでしょうか。
特養入居時の住所変更には、メリットとデメリットがそれぞれ存在します。総合的に判断し、自分にとって過ごしやすくなる選択をすると良いでしょう。
この記事では、住所変更するしないにかかわらず、特養で快適に過ごすためのヒントをお伝えしています。
特養入居時には住所変更するのが一般的
そもそも、引っ越しなどで居住地を変更した場合には、住所変更(住民票の移動)が、住民基本台帳法によって義務付けられています。
特養に入居している人の多くは、施設やケアマネージャーからすすめられて、住所変更をしている人が大半です。
引っ越し後14日以内に住所変更しておかないと、最大5万円の過料に処せられるおそれがあります。
ただし、以下の場合には住民票の移動は任意とされています。
- 新居に住む期間が1年以内など短期間であることが予想される場合
- 引っ越ししたものの、生活拠点を元の自宅に置いている場合
ご自身がどのケースに当てはまるかを考え、住所変更するかどうかを決めると良いでしょう。
介護施設のなかでもグループホームなどの地域密着型の施設では住所変更が義務になっているところもあるため、注意が必要です。
地域密着型の施設については、こちらの記事で詳しく解説しています。
地域密着型サービス9種類とは?サービス一覧と利用までの流れを解説
特養で住所変更した場合のメリット
そもそも住所とは住んでいるところを指します。住んでいる場所が特養に変わったのなら、住民票も移動することが望ましいでしょう。
住民票を移動すると、介護費用を安く抑えられたり、より良い行政サービスを受けられたりする可能性があります。詳しく見ていきましょう。
郵便物が直接届く
住所変更した場合、郵便物が直接入居者のもとへ届くようになります。一方、住所変更しない場合、元の居住地である自宅に郵便物が届いてしまいます。
自治体から発行される郵便物の多くは、住民票のある住所宛に発送されます。住所変更していない場合、新しい住居には公的書類なども届かなくなると考えて良いでしょう。
親族などが自宅に届いた郵便物をすぐに届けてくれる場合には、住民票を移すメリットは少ないかもしれません。しかし、郵便物が特養に届き、入居者に手渡されるほうが確実な上に手間もかかりません。
新しい自治体の行政サービスが受けられる
自治体を越えた転居の際に住所変更すると、新しい自治体の公共施設で割引を使える場合があります。
公共施設や飲食店などでは、自治体によって高齢者専用の割引サービスが提供されていることがあります。住所変更する前に、転居先の自治体でどのようなサービスが受けられるのかを確認しておくと良いでしょう。
また、助成金や給付金なども住民票のある自治体でしか申請できない可能性があります。
住所変更していない場合、公的証明書が必要になったときには転居前の自治体で手続きすることになります。住所変更を怠ると、かえって手間が増えてしまうこともあるのです。
介護保険料が安くなる場合がある
介護保険料は、各自治体によって料金設定が異なります。そのため、転居先の自治体の介護保険料や国民健康保険料が、以前の自治体よりも安くなる場合があります。
特別養護老人ホームは、要介護3以上の高齢者に生活全般の介護を提供する施設です。手厚い介護を受けられることから、終身利用を目的に入居している人も多くいるでしょう。長期間払い続ける保険料は、少しでも安くしておくと、生活費を抑えられます。
保険料を多く収めたからといって、サービスの質が高まるわけではありません。各自治体の介護保健課に介護保険料の支払い金額について、どちらが安くなるのか相談してみるのもおすすめです。
特養で住所変更した場合のデメリット
転居後の住所変更は例外を除いて義務であるものの、手間と労力がかかります。その上、住所変更したことによって被る不利益も存在します。
ここからは、特養入居に伴い住所変更した場合のデメリットを紹介します。
プライバシーが守られない可能性がある
多くの特養では、施設のスタッフが配達員から郵便物や宅配便を受け取り、入居者に届けます。入居者のなかには誰からの手紙や荷物が来たのか、スタッフにも知られたくない人がいるかもしれません。
スタッフが親しみを込めて、「〇〇からお手紙が届いていますよ」と声をかけてくることもあります。自分宛に誰から何が送られてきているのかを把握されると、生活を監視されているような気分になり、嫌な気持ちになる人もいるでしょう。
住所変更した場合、郵送物はスタッフが仲介するため、入居者のプライバシーを守ることが難しくなります。
介護保険料が高くなる可能性がある
転居により自治体が変わることで保険料が安くなる場合もありますが、反対に保険料が高くなってしまうおそれもあります。
65歳以上の介護保険料基準額は、各自治体によって要介護認定者数や介護サービスの利用者数などを考慮し、3年ごとに見直しが行なわれています。高齢者人口の少ない自治体に引っ越した場合、介護保険料が高くなってしまう可能性があるのです。
介護保険料は自治体によって高くも安くもなるため、住所変更する前によく調べておくと良いでしょう。
自治体を越える住所変更をして、保険料が高くなる場合には「住所地特例制度」を利用すると、保険料の増加が抑えられます。
自治体が変わる場合には住所地特例制度が利用できる
住所地特例制度とは、転居したあとも継続して元の自治体の被保険者のままでいられる制度です。条件を満たしている場合、住民票を移動しても介護保険料は変わりません。
住所変更したいけれど、新しい自治体の介護保険料が高いと感じる人は、住所地特例制度を利用すると良いでしょう。
住所地特例制度の対象となる人
住所地特例制度の対象となるのは、65歳以上の人もしくは40歳〜64歳で公的医療保険に加入している人のなかで、他市区町村から住民票を移動させて住所地特例対象施設に入所した人です。
住所地特例制度は、要介護認定を受けていなくても利用可能ですので、対象となる人は積極的に利用すると良いでしょう。
住所地特例制度の対象施設
住所地特例制度は、どの介護施設でも利用できるわけではありません。制度を利用できるのは、以下の施設に限られます。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 軽費老人ホーム(ケアハウス)
- 養護老人ホーム
- 有料老人ホーム(介護付・住宅型)
- サービス付高齢者向け住宅(サ高住)(※有料老人ホームに該当するもの)
住所地特例制度が利用できる施設は、各自治体のホームページから確認できます。保険料が安くなるか不安な場合には、ケアマネージャーや特養のスタッフに、制度を利用できるか相談すると良いでしょう。
住所地特例制度の手続き方法
住所地特例制度を利用するには、以下の手順で手続きします。
- 元の自治体に「住所地特例適用届」を提出する。
- 入所した特養から元の自治体に対して「施設入所連絡票」を送付してもらう。
- 新しい自治体から元の自治体に「住所地特例者連絡票」を送付してもらう。
自治体によっては、提出までの期限を設けている場合があるため、早めの準備を心がけましょう。
なお、住所地特例制度は、対象の施設に入居する場合にのみ利用できます。転居して親族宅などで在宅介護を受ける場合や、グループホームなどの地域密着型の施設を利用する場合には制度を利用できないことには注意が必要です。
住所変更に必要な手続き
住所変更するには、旧住所のあった自治体の役所で転出届を提出し、引っ越し先の自治体に転入届を提出します。市区町村内での引っ越しの場合には、転居届のみを提出します。
転出届の手続きの際には、免許証やパスポート等の本人確認書類と印鑑が必要です。
転入届の手続きには、本人確認書類と印鑑に加え、転出証明書も必要になります。
引っ越しする本人の代理で手続きをする際には、代理人の本人確認書類と委任状も準備しておきましょう。
住所変更した際には以下の証書の住所も変更しておくと、手続きの手間が少なくなります。更に
- マイナンバーカード
- 国民健康保険
- 国民年金
- 後期高齢者医療被保険
- 介護保険受給資格
- 銀行口座・クレジットカード
あわせて郵便局に転送届も提出しておくと、旧住所宛に発送された郵便物を新住所へ配達してもらえるようになります。
まとめ|特養では状況に合わせて住所変更しておこう
特養へ入居する際の住所変更は義務ではあるものの、入居期間や生活拠点によって変更は任意とされる場合があります。
住所変更しておくと、郵便物の確認漏れが防げる上、スムーズに行政サービスが受けられるようになるでしょう。
自治体を越えて引っ越した場合、介護保険料が高くなる可能性もありますが、住所地特例制度を利用することで負担額の変わらないまま生活できます。
住所を変更するメリットとデメリットを比べ、特養での生活が少しでも快適になる選択をすると良いでしょう。
特養で快適な生活を送るためには、住所変更の有無以上に施設選びが大切です。いいケアネットでは、大阪を中心に全国の有料老人ホーム情報を幅広く提供しています。
ご希望の地域で過ごしやすい特養をお探しの場合は、ぜひご利用ください。
特養での住所変更についてよくある質問
特養は住所変更しないままでも滞在できますか?
特養に入居した場合、住所変更が必要です。ただし、入居期間が1年未満の予定であったり、生活拠点を自宅に置こうと思ったりしている場合には、住所変更しなくても問題ありません。
メリットとデメリットを比較した上で、住所変更するかどうかを決めると良いでしょう。
特養での住所変更はいつまでにすれば良いですか?
住民基本台帳で定められた14日以内に住所変更を済ませることをおすすめします。
さらに、入居から14日以内に介護保険の受給資格証明書を提出する必要があります。受給資格証明書とは、要支援・要介護の認定を受けている人が、新しい自治体でも認定内容を継続できるようにするための証書です。
14日を過ぎると受給資格証の期限が切れてしまうため、介護認定の再審査が必要になります。介護認定審査会での審査や処理には、30日以上かかることも多くあります。
住所変更すると決めた場合には、余裕を持って手続きを進めておくと良いでしょう。