要介護の高齢者を持つ家族が直面する悩みの一つに「セルフネグレクト」があります。
しかし、実際にセルフネグレクトとは何か、その原因や適切な対応策を詳しく知っている人は少ないかもしれません。
この記事では、セルフネグレクトの基本概念から原因、そして具体的な症状や対応策までを詳しく解説しています。
読み進めることで、見過ごしてはいけない予兆を見抜き、適切な支援へとつなげる手がかりを得られるでしょう。
セルフネグレクトとは?【診断チェックリスト付き】
セルフネグレクトとは「自己放任」とも訳され、日常生活を営む上で欠かせない衛生・健康・安全の維持に必要な自己に対するケアが怠慢になる状態です。
セルフネグレクトは60〜70代で発症リスクが上昇しますが、若年層でも兆候が現れ始めるケースもあります。
以下は、セルフネグレクトの兆候があるかを見つける簡易的な診断チェックリストです。東洋大学でおこなわれた研究の報告書内に掲載されているセルフネグレクトサインシートを参考に、いくつかの項目をピックアップしました。
【本人の状況】
□無力感・あきらめ・投げやりな様子がみられる
□暴言を吐く・無表情な顔つきなど、今までと急に変わった様子がある
□薄汚れた下着や衣類を身につけているときがある
□服装や身だしなみに関心がなくなってきた
□ゴミをうまく分別できなくなった、または指定日にゴミを出さなくなった
□薬を飲んでいないなど、治療を中断しているような言動がある
【家屋および家屋周辺の状況】
□テーブルや台所に汚れた食器類が積み重なっている
□室内を掃除した様子がない
□郵便受けに郵便や新聞がたまっている
□庭や家屋の手入れがされていない
□(65歳以上のみ)仏壇の手入れがされていない
【社会との交流】
□ここ3年くらいの間に一人暮らしになった
□ここ3年くらいの間に家族とくに配偶者の死に直面した
□近隣との日常会話が減った
□今まで挨拶していたのに、挨拶しなくなった
□地域行事への参加が急に減ってきた
セルフネグレクトの兆候が見られた場合には、お近くの地域包括支援センターに相談してみましょう。
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セルフネグレクトになる5つの原因
セルフネグレクトになる原因はさまざまですが、大きく次の5つに分けられます。
- 身体機能の低下
- 社会からの孤立
- 経済的困窮
- うつ病や認知症などの影響
- 家族からの虐待
それぞれ解説します。
身体機能の低下
セルフネグレクトの原因として、まず身体機能の低下があげられます。たとえば、足腰が弱くなり買い物に行けなくなったり、家の掃除をするのが難しくなったりします。
このような状態が続くと「今までできていたことができなくなった」という精神的なダメージを受け、自暴自棄の状態に陥りやすくなってしまうのです。
以下の記事では、高齢者の一人暮らしにおける限界について解説しています。対策も紹介しているので、高齢者の親が一人暮らしで、今後の生活に不安を感じている方は参考にしてみてください。
関連記事:高齢者一人暮らしの限界と対策|自治体の支援や施設入居を活用しよう
社会からの孤立
社会から孤立する環境も、セルフネグレクトになる原因です。
高齢になると定年退職や子どもとの疎遠などにより、孤独感を感じやすくなります。とくに、配偶者や兄弟と死別する経験は、高齢者にとって大きな心の負担となり、生活全般に悪影響を与えるケースも少なくありません。
こうした孤立した環境が続くと、誰かに助けを求める意欲を失い、自分自身の生活を放棄しやすくなります。
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経済的困窮
セルフネグレクトは、経済的に困っている状況から発生する場合もあります。
とくに年金だけで生活している高齢者は、生活費が家計を圧迫しやすくなります。
その結果、医療費を払う余裕がなくなり、病気やけがを放置してしまうケースも少なくありません。また、食費を抑えるため、食事の回数や食事量を減らす傾向が見られる方もいます。
経済的困窮は、健康状態の悪化や生活の質低下につながりやすい問題です。
うつ病や認知症などの影響
セルフネグレクトは、うつ病や認知症といった疾患とも密接に関係しています。
うつ病になると、気分が落ち込み、食事やお風呂など日常の生活に対する関心が薄れてしまいます。
認知症を発症すれば、日常生活で必要な手順を忘れてしまい、自分自身の世話がうまくできなくなる機会が増えるでしょう。
セルフネグレクトは、ただの自己管理の問題ではなく、根本的となる病気と向き合わなくてはならない問題です。
以下の記事では、老人性うつの症状や原因を解説しています。治療法や接し方も紹介しているので、老人性うつの理解を深めたい方は参考にしてみてください。
関連記事:老人性うつとは?症状や原因・治療法・接し方・予防法をご紹介
家族からの虐待
家族からの虐待が原因で、セルフネグレクトに陥るケースもあります。虐待を受け続けると「自分には価値がない」と感じやすくなり、自己肯定感が低下しがちです。
結果的に、自身の健康管理や清潔感の維持などが大切にできなくなります。
以下の記事では、家庭内における高齢者虐待の実態を解説しています。発生要因も紹介しているので、高齢者虐待が起こる背景を知りたい方は参考にしてみてください。
関連記事:家庭内における高齢者虐待の実態
セルフネグレクトの対応策5選
セルフネグレクトの対応策として、主に次の5つを実践してみましょう。
- 本人と対話する
- うつ病や認知症の治療やケアをおこなう
- 地域・社会の支援を活用する
- 家事代行サービスに依頼する
- 介護サービスを利用する
それぞれ解説します。
本人と対話する
セルフネグレクトにおいて、本人との対話は非常に重要です。このやり取りを通じて、感情や潜在的なニーズを理解し、適切なサポートへとつなげられるからです。
対話の際には、否定的な表現を避けた言葉選びが大切となります。「一緒に問題を解決しましょう」といった共感を示す表現も取り入れましょう。
また、会話の中で、日常生活で遭遇する具体的な困難に対し、どんな支援を望んでいるかを探る姿勢も大切です。
セルフネグレクトの問題に直面した際は、本人との対話から始めることが、解決のための第一歩となるでしょう。
うつ病や認知症の治療やケアをおこなう
先述のとおり、セルフネグレクトはうつ病や認知症が原因となって起こる場合があります。
そのため、うつ病や認知症の治療やケアを進めれば、セルフネグレクトの根本的な対策につながるでしょう。
たとえば、うつ病の治療では、医療機関でのカウンセリングや投薬治療を続けると、気分の落ち込みや無気力な状態が少しずつ軽減される可能性があります。
一方、認知症の場合は、専門的なケアをおこなえば、症状の進行を遅らせ、自己管理能力の維持を図れるでしょう。
このように、セルフネグレクトは、適切な医療とケアによって改善が期待できます。
地域・社会の支援を活用する
セルフネグレクトに対する有効な手段の一つとして、地域包括支援センターへの相談があります。
地域包括支援センターは、高齢者が自宅で安心して生活できるように支援する機関です。セルフネグレクトの問題を抱える高齢者やその家族に対して、専門的な知識を持つスタッフが以下のような多岐にわたるサポートを提供しています。
- 生活支援サービスの案内
- 健康管理のアドバイス
- 精神的なサポート
- セルフネグレクトの状態を軽減するための情報提供
必要に応じ専門機関と連携し、医療や福祉の面での具体的な支援を受けることも可能です。
最寄りの地域包括支援センターは、厚生労働省のホームページから確認できます。
家事代行サービスに依頼する
セルフネグレクトの状態になると、体力的な衰えや心の状態によって、家事をこなすのが難しくなる場合があります。そんなときは、家事代行サービスの利用を検討してみましょう。
掃除や洗濯を代行してもらえば自宅が清潔になり、心身ともにリフレッシュできる環境が整います。
さらに、外部機関に依頼すると人との交流が生まれ、孤独感の軽減につながる可能性もあります。
介護サービスを利用する
セルフネグレクトの状態にある場合、介護サービスの利用を検討することが大切です。
セルフネグレクトの問題は単に家事がおろそかになるだけでなく、健康管理ができなくなる深刻な状態に発展し得るからです。
とくに高齢者の場合、適切な栄養摂取や定期的な健康診断が欠ければ、急速に健康状態が悪化するリスクが高まります。
たとえば、ホームヘルパーが定期的に訪れれば、日常生活の支援や食事、清掃といった家事全般を手助けできます。
さらに、介護施設の利用も有効な手段です。
24時間体制で専門スタッフが支援を提供するため、安全で健やかな生活を送れます。また、介護施設では、レクリエーションやイベントも実施されており、社会的な孤立感も大幅に軽減できます。
セルフネグレクトの問題に直面している場合、訪問介護や介護施設などの専門的な介護サービスの利用を視野に入れるのが、高齢者の健康と安全を守る上で非常に重要です。
以下の記事では、介護に悩んだときの相談窓口に関する情報をまとめています。介護の不安や悩みを誰に話せばいいのか考えている方は、参考にしてみてください。
セルフネグレクトの原因を特定して適切に対応しよう【まとめ】
セルフネグレクトとは「自己放任」とも訳され、日常生活を送る上で必要不可欠な衛生、健康、安全を守るための自己ケアを怠る状況です。
身体的・認知的要因や社会的・経済的要因、精神的な健康状態などが原因で、セルフネグレクトに陥ります。
セルフネグレクトへの対応策としては、本人との対話や地域・社会の支援を利用するなどの方法が挙げられます。また、家庭での対応が難しい場合は、介護施設への入所を検討する必要もあるでしょう。
セルフネグレクトに陥らないよう、日ごろから注意深く観察し、少しでも異変を感じたら早めに対処できるよう、これらの知識を身につけておく心構えが大切です。
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この記事の監修者
いいケアネット事務局
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