「最近、親がテレビに近づいて見るようになった」
「最近、目が見えづらそうだけど、病院に行くほどではなさそう…」
そんなふうに迷っている方も多いのではないでしょうか。
高齢者の目の病気は、早期発見とケアが何よりも大切です。
見えにくさを本人がうまく伝えられなかったり、「歳のせい」と片づけてしまったりするケースも少なくありません。
この記事は、高齢者の目の病気に関する情報や予防法をわかりやすく解説しています。
親の目の状態に応じた対応や受診の必要性を理解すれば、家族としての適切な対応が可能です。
大切な親の目の健康を守るための第一歩として、ぜひ参考にしてください。
高齢者に多い代表的な目の病気
高齢になるとさまざまな目の病気のリスクが高まります。代表的な目の病気は以下の3つです。
- 白内障
- 緑内障
- 加齢黄斑変性症
症状や進行の仕方が異なるため、早期発見と適切な対応が大切です。
家族の目の変化に気づくために、それぞれの疾患について詳しく見ていきましょう。
白内障
白内障とは、目の水晶体(すいしょうたい)という部分が白く濁ってしまう病気です。
目をカメラに例えると、水晶体がレンズの役割をしています。
カメラのレンズが曇ると写真がかすむのと同じように、水晶体が濁ると視界がかすんだり、ぼやけたり、強いまぶしさを感じたりします。また視力も低下します。
【白内障の原因】
白内障の多くは加齢によるもので、早い場合は40代から発症し、年齢を重ねるにつれ発症率が高くなります。加齢以外の原因には、ステロイド薬、アトピー性皮膚炎、糖尿病などが考えられます。
【白内障の主な症状】
光がまぶしい/目がかすむ・ぼやける/物が二重に見えるなど
【白内障の治療方法】
白内障は症状が進行しても手遅れになる病気ではありませんが、日常生活に支障がある場合などは治療が必要になります。治療には大きく分けて、点眼薬と手術があります。
◆薬物療法
日常生活に支障がない段階では、白内障の進行を遅らせることを目的に、点眼薬などの薬物治療が行われることがあります。しかし今のところ薬だけでは濁ってしまった水晶体を透明に戻すことはできません。
◆手術
白内障が進行し日常生活に支障が出てきた場合は、外科的手術が行われることがあります。手術では濁った水晶体を吸い出し、代わりに人工のレンズを挿入することで視力を回復させます。
緑内障
緑内障とは主に眼球の圧力(眼圧)が高くなることで視神経が障害される病気です。
視野が狭くなったり、視力が低下したりします。
眼圧の上昇が緩やかな場合は、自覚症状がほとんど無く、症状に気づく頃には視野障害がかなり進行していることも多く、注意が必要です。
一方、目の痛みや激しい頭痛・吐き気などを自覚する「急性緑内障発作」もあります。脳外科や内科を受診される方も多いですが、目の症状も忘れないように訴えましょう。
治療が遅れると数日で失明することもあります。
また眼圧は正常でも視神経が障害される「正常眼圧緑内障」もあり、日本人では一番多いと言われています。
日本では40歳以上の20人に1人が緑内障と考えられております。
【緑内障の原因】
生まれつきの目の構造/目のけが/糖尿病や白内障などの病気/ステロイド薬の副作用などが考えられます。
【緑内障の主な症状】
視野が狭くなる/見えない部分(暗点)が出現する/目がかすむ/目が痛む/頭痛や吐き気/目が充血するなど
【緑内障の治療方法】
基本は点眼薬です。手術の方法もありますが、手術は点眼薬も効かない方が受けられます。しかし手術を受けたからといって治る病気ではなく、治療継続しても悪化した視野が元に戻ることはありません。
よって治療を続ける気持ちを継続しにくい病気ですが、治療を続けなければ悪化していくため、悪化していくのを予防するために点眼と通院を続ける必要があります。
加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)
加齢黄斑変性症とは加齢が原因で網膜中心部の黄斑に障害が生じ、視野の中心部のゆがみや視力低下をきたす病気です。
あまり聞きなれない病気ですが、近年増加しております。
【加齢黄斑変性症の原因】
遺伝的な要因をもとに、食事や喫煙といった生活習慣、高血圧、光刺激など長年の積み重ねによるものと考えられています。
【加齢黄斑変性症の主な症状】
物が歪んで見える/色の識別がしにくい/視力の低下がある/視野の中心に見えない部分がある/視野の中心がぼやける/左右で物の大きさが違って見えるなど
【加齢黄斑変性症の治療方法】
治療方法は以下の3つです。
◆抗VEGF療法
新生血管を抑える薬(抗VEGF)を眼球に注射する方法です。
◆光線力学的療法(PDT)
光に反応する薬剤を体内に注射した後、病変部に弱いレーザーを当てる治療です。
◆光凝固法
レーザー光線を新生血管のあるところに照射する方法です。
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高齢者が目の病気を予防するための生活習慣
目の病気の多くは、日常生活での心がけによって予防したり進行を遅らせたりできます。
ここでは、日常生活で実践できる目の病気予防のための5つの習慣を紹介します。
- 紫外線対策をする
- 目を酷使しない
- 栄養バランスのとれた食事をとる
- 定期的に眼科検診を受ける
- 禁煙に努める
どれも難しいことではありません。無理なくできることから始めて、目の健康を守っていきましょう。
紫外線対策をする
紫外線は白内障や加齢黄斑変性症など、高齢者に多い目の病気の原因です。
とくに紫外線は3月から4月にかけて急増し、夏にピークを迎えるため、季節を問わず対策が必要です。
効果的な紫外線対策は以下のとおりです。
対策方法 | 具体的なポイント |
UVカットサングラスの着用 | ・紫外線透過率が低い(1%以下)ものを選択 ・色の濃さではなく、UVカット機能を重視 |
つばの広い帽子の使用 | ・つばが7cm以上の帽子を選択 ・顔や首元を広く覆えるデザインが理想 |
日傘の活用 | ・UVカット率が高いものを選択 ・黒や濃い色の生地が効果的 |
紫外線対策には、紫外線透過率の低いUVカットサングラスの着用が効果的です。
つばの広い帽子や日傘を併用すると、目への紫外線をさらに防げます。
紫外線による目の障害は蓄積するため、日頃から対策を実施し、違和感を覚えたら早めに眼科を受診しましょう。
目を酷使しない
テレビやパソコン、スマートフォンなどのデジタル機器の長時間使用は、目に大きな負担をかけます。
加齢により目の回復力が低下している高齢者は、とくに目への負担が大きくなりやすいです。
目を酷使しないための対策は以下のとおりです。
対策 | 内容 |
20-20-20ルールを実践する | 20分ごとに20秒間、6m以上離れたものを見る |
画面との距離を40cm以上保つ | スマートフォン・パソコン画面を見るときに40cm以上離す |
就寝前のスマートフォン使用を控える | メラトニン分泌の抑制:体内時計の乱れ |
参考:公益社団法人 日本眼科医会 ギガっこデジたん!活用マニュアル
目の負担を減らすには、「20分見たら20秒遠くを見る」20-20ルールの実践が効果的です。
適切な明るさと40cm以上の距離を保ち、就寝前のスマホ使用は控えましょう。
疲れを感じたら温かいタオルで目を休めるなど、こまめなケアも大切です。
栄養バランスのとれた食事をとる
目の健康維持には、適切な栄養素の摂取が欠かせません。
高齢者は消化・吸収機能が低下しているので、意識的に目にいい栄養素をとりましょう。
目の健康によい栄養素は以下のとおりです。
- ルテイン・ゼアキサンチン:網膜を保護する
- ビタミンC・ビタミンE:水晶体の酸化ストレスを防ぐ
- DHA・EPA(オメガ3脂肪酸):目の炎症を抑える
- アントシアニン:白内障を予防する
目の健康には、ルテインやDHA、ビタミン類など、目にいい栄養素を意識して摂りましょう。
これらの栄養素を一度にとるのは難しいため、主食・主菜・副菜をバランスよく組み合わせた食事を続けることが大切です。
定期的に眼科検診を受ける
目の健康を守るためには、定期的な眼科検診がおすすめです。
とくに糖尿病や高血圧などの持病がある方は、目の病気のリスクが高まるため、慎重なチェックが求められます。
高齢者の目の病気は初期症状がほとんどなく自覚したときには、すでに進行しています。
緑内障は「沈黙の視力泥棒」とも呼ばれ、気づかぬうちに視野が狭くなるのです。
両目の視力が徐々に低下する場合、片方の目がもう片方をカバーするため、本人が異変に気づきにくい点も特徴です。
定期的な眼科検診なら、自覚症状が出る前に早期発見できるケースが多く、治療の選択肢も広がります。
目の健康は体の健康と関わるため、眼科検診が全身の健康維持にもつながるでしょう。
禁煙に努める
喫煙は目の健康に深刻な悪影響を及ぼします。
タバコに含まれる有害物質は血管を収縮させ、目の組織への血流や酸素供給を妨げ、酸化ストレスを増大させるのです。
目の病気につながる要因を減らすためにも、禁煙を心がけましょう。
禁煙は目の病気を防ぐだけでなく、全身の健康にも効果がある習慣です。
禁煙が難しい場合は、かかりつけ医に相談し、禁煙補助薬やカウンセリングなどのサポートも検討して見てください。
高齢者に多い目の病気を把握して適切な治療を進めよう【まとめ】
高齢者に多い目の病気である白内障、緑内障、加齢黄斑変性症は、早期発見と適切な対応が大切です。
白内障は水晶体が濁り視界がかすみますが、手術で改善できます。
緑内障は視神経が障害され視野が狭くなる病気で、早期治療が不可欠です。
加齢黄斑変性症は視野の中心部がゆがむ病気で、いずれも高齢になるほど発症リスクが高まります。
予防には紫外線対策・目を酷使しない習慣づけ、禁煙などの生活習慣が効果的です。
目の異変を感じたら早めに眼科を受診し、家族も高齢者の目の変化に気を配りましょう。
適切なケアと生活習慣の改善で、多くの目の病気は予防・進行抑制が可能です。
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高齢者に多い目の病気に関するよくある質問
高齢になると、目に関するさまざまな不調や変化が現れます。
ここでは、高齢者の目に関してよく寄せられる質問をご紹介します。家族の目の変化に気づいたときの参考にしてください。
高齢者で目がしょぼしょぼする原因は何ですか?
高齢者の目がしょぼしょぼする主な原因は、加齢による涙の分泌量の減少と質の変化です。年齢を重ねると、涙の油分(脂質層)が減少し、目の表面が乾きやすくなります。
これがドライアイの症状を引き起こします。ドライアイの症状は以下のとおりです。
- 目のしょぼしょぼ感
- 異物感
- 疲れ目などの不快感
60歳以上の方の約7割に見られる「結膜弛緩症」も原因の1つです。これは白目の表面を覆う半透明の膜(結膜)が加齢によって余ってたるみ、黒目の部分に触れると違和感が生じる状態です。
下側の結膜がたるむと、涙が下まぶたにうまくたまらず、まばたきをしても涙が角膜全体に行き渡りにくくなります。治療としては保湿効果のある目薬の使用が一般的ですが、症状が気になる場合は眼科医への相談がおすすめです。
高齢者で目の見えにくさや視力低下は病気以外に原因はありますか?
高齢者の目の見えにくさや視力低下は、必ずしも白内障や緑内障などの病気だけが原因ではありません。
視力が低下する原因は、次のような要因が挙げられます。
要因 | 説明 |
老眼 | 40歳頃から始まり、水晶体の弾力低下で近くにピントが合いにくくなる状態 |
夕方老眼 | 長時間目を使った後、夕方に一時的に物がかすんで見えにくくなる状態 |
コントラスト感度の低下 | 明暗の差を識別する能力が低下し、薄暗い場所での視力低下を感じやすくなる状態 |
老眼は40歳頃から始まる加齢による自然な変化です。水晶体の弾力が低下し近くが見えにくくなります。夕方に一時的に視界がかすむ「夕方老眼」や、暗所で見えづらくなるコントラスト感度の低下も見られます。
これらは病気ではなく、眼鏡やコンタクトで改善可能です。定期的な視力検査と眼科受診が大切です。

監修者
大阪大学医学部大学院寄附講座教授・医学博士
森下 竜一
大阪大学医学部大学院寄附講座教授・医学博士。スタンフォード大学での研究経験を持ち、健康医療戦略の政府参与や2025年大阪・関西万博の総合プロデューサーを務める。これまで多くの受賞歴を持ち、抗加齢医学専門医などの資格も保有。