「親の介護をしないとどうなるのか」といった疑問は、多くの人が直面する問題ではないでしょうか。介護は精神的・身体的な負担が大きく、簡単に答えを出せるものではありません。
親の介護ができないときは、兄弟や親族を頼ったり、公的サービスを利用したりする方法があります。
今回は、親の介護義務の法的解釈から、介護放棄のリスクや遺産相続への影響まで詳しく解説します。介護が難しいときの対処法や負担を軽減する方法もまとめているので、ぜひ参考にしてください。
大阪を中心に、多数の高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」では、老人ホームに関する疑問やまつわる情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中です。
親の介護をしないとどうなる?法的義務と対象親族
親の介護に直面した際に、法的な義務やその範囲を理解しておくことは重要です。ここでは、親の介護が法的義務としてどのように扱われているのか、扶養義務の対象や経済的な側面との関係について解説します。
自分で介護をおこなう法的義務はない
日本の民法では、子どもには親を扶養する義務があると定められています。
そのため、扶養義務を果たさない場合、法的な責任を問われる可能性があります。
ただし、親の扶養義務は、子どもが自身の生活を犠牲にしてまで果たさなくてはならないような、絶対的な義務ではありません。つまり、自身や家族の生活を維持した上で扶養するといった認識が必要です。
また、親の扶養義務は「経済的な支援」が原則とされているので、必ずしも子どもが直接的な介護をする必要はありません。子どもが親の介護をできない場合は、介護保険サービスを利用するといった対処が認められています。
参考:e-GOV『民法』
直系血族・兄弟姉妹に扶養義務がある
扶養義務は、直系血族および兄弟姉妹が対象です。民法によると、直系血族とは親子の関係を指します。
また、兄弟姉妹間にも扶養義務がありますが、法律上で扶養義務の順序は定められていません。たとえば、長男に特別な義務があるわけではなく、扶養義務者が複数いる場合は、当事者同士で協議して決めることになります。
さらに、特別な事情がある場合は家庭裁判所の判断によって、直系血族および兄弟姉妹以外の3親等内の親族も扶養義務の対象になり得ます。
親の扶養義務が免除されるケースもある
経済的に余裕がないときは、親の扶養義務が免除されるケースもあります。
子どもが成人している場合、扶養義務は「生活扶助義務」の解釈が可能です。生活扶助義務において、扶養義務者が自らの生活を犠牲にしない範囲内で、扶養される人の最低限度の生活を支えることが求められます。
また、扶養義務者に経済的な余裕があるかどうかの判断は、生活保護制度で定められた「生活扶助基準額」を基に判断されます。経済的に困難な状況において、無理に親の介護を強いられるわけではありません。
親の介護ができないよくある3つの理由
親との関係性や金銭的な余裕の有無など、親の介護ができない理由はさまざまです。
以下で、親の介護ができないよくある理由を3つ解説します。
親との関係性に懸念がある
親との関係性が良好でない場合、介護を引き受けることに対する心理的な障壁が大きくなります。
過去に親から厳しい態度を取られたり、家庭内でトラブルがあったりする場合は、介護に対する精神的な負担を感じやすいでしょう。また、長年連絡を取っていない状況においては、心理的な距離を埋めるために時間がかかるケースも珍しくありません。
ほかにも、認知症や精神的な疾患によって親の態度や言動が不安定な場合には、関係性の悪化も懸念されます。親との関係性が良くないと、その分、介護における精神的な負担は大きくなってしまいます。
金銭的に余裕がない
金銭的に余裕がないことも、親の介護ができないよくある理由の一つです。介護には、以下をはじめとする多くの費用がかかります。
- 生活費の支援
- 介護用品の購入費
- 施設入居費用
- 介護サービス利用料
介護にかかる費用は、親の経済状況や利用する介護サービスの種類などによって、予想以上に高額になるケースも珍しくありません。
そのため、金銭的な理由で親を介護するのが難しくなる場合も考えられます。
時間・肉体的な負担が大きい
介護には時間と労力が必要です。とくに親が重度の疾患や障害を抱えている場合は、多くの時間を介護に費やす必要があるほか、肉体的な負担も大きくなります。
夜間のトイレ介助や食事の準備、服薬の管理など、場合によっては24時間体制で見守りが必要になるケースも珍しくありません。
介護者が仕事をしている場合、時間的・肉体的な負担はより一層大きく感じられるでしょう。職場の理解を得られなかったり、仕事を休むことで収入が減少したりすると、親の介護に対してジレンマを抱えやすくなります。この場合、精神的・金銭的負担と相まって、親の介護はますます難しくなります。
親の介護をしないとどうなる?
親の介護を必要とする状況において、責任の放棄は重大な法的・道徳的な問題を引き起こします。以下では、親の介護をしないとどうなるのか、リスクや法的な影響について詳述するので、ぜひ参考にしてください。
介護放棄による孤独死のリスクがある
介護放棄とは、介護を必要とする人の介護を怠ることを意味し、「ネグレクト」とも呼ばれます。介護放棄に該当するのは、十分な食事を与えない、医療機関を受診させないといった行為などです。
実際に、介護の精神的・身体的・経済的な負担により介護放棄に至るケースも珍しくなく、社会的な問題にもなっています。しかし、前述のとおり、法律上では親の介護の完全な放棄は許されていません。
また、介護放棄により孤独死のような重大なケースに発展する可能性もあります。
孤独死をはじめとするリスクを避けるためにも、親の介護を放棄せず、適切な対応を考えることが重要です。
保護責任者遺棄罪に問われる可能性がある
親の介護を放棄すると「保護責任者遺棄罪」に問われる可能性があります。保護責任者遺棄罪には、3カ月以上15年以下の懲役刑が科されます。さらに、介護放棄により親が死亡した場合は、より重い罪に問われる可能性もあるため注意が必要です。
ただし、扶養義務に関しては、介護者の経済状況も考慮されます。介護者が経済的に困っている場合など、すべての状況において法的な責任が問われるわけではありません。
介護費用の負担だけでも義務を果たしたとみなされる
親の介護においては、介護費用を負担するだけでも扶養義務を果たしているとみなされます。扶養義務には、同居や引き取りによる直接的な義務と、経済的に扶養する義務の2種類があり、どちらか一方を果たせば問題がありません。
親を介護するための時間が確保できなかったり、心身の負担が大きいと感じたりしている場合は、介護施設への入所も検討してみてください。施設の入所費用を負担するだけでも扶養義務を果たせるほか、専門的なケアによって介護の負担を軽減できます。
遺産相続に影響を与えることがある
親の介護への貢献度は、遺産相続に影響を及ぼす可能性があります。介護をおこなった子どもは「寄与」といった形で被相続人に特別な貢献をしたと主張でき、相続分がほかの法定相続人より増える場合があります。
ただし、前述のとおり親の扶養は子どもの義務なので、必ずしも介護による寄与分が認められるわけではない点に注意が必要です。
このように、介護放棄は法的なリスクのみならず、遺産相続における権利や責任にも影響を及ぼす可能性があります。
親の介護ができないときの対処法
親の介護を直接担うことが難しい場合でも、いくつかの対処法が考えられます。ここでは、兄弟やほかの親族に協力を求める方法や介護サービスの利用など、親の介護ができないときの解決策について解説します。
兄弟やその他親族に相談する
介護は一人で抱え込むものではなく、家族や親族の協力が重要です。
たとえば、遠方に住む兄弟に介護費用の支援を依頼したり、ほかに頼れる親戚がいれば通院の送迎や買い物の手伝いを頼んだりして、協力を求めましょう。
なお、サービス利用の契約や治療方針の決定など責任を伴う重要な判断は、近くに住む家族が担うことが望ましいです。
介護保険サービスを利用する
親の介護ができないときは、介護保険サービスの利用も選択肢の一つです。
とくに、家族や親族の協力が得られない場合や親の介護に限界を感じている場合は、なるべく早く介護施設に入所できないか検討しましょう。
介護施設では、親の介助を専門のスタッフに委ねられ、特定の家族に介護の負担が集中する事態を避けられます。
介護保険サービスの種類
介護保険サービスの種類は、以下の3つに大別できます。
- 居宅サービス
- 施設サービス
- 地域密着サービス
居宅サービスは、介護を必要とする方が自宅に居ながら受けられる介護保険サービスで、訪問型・通所型・短期入所型といった種類があります。また、施設サービスとは、施設に入所した要介護状態の高齢者を対象とした介護保険サービスです。
地域密着型サービスは、事業所がある市区町村において介護を必要とする方を対象とした介護保険サービスで、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるように導入された制度です。
介護保険外サービスの併用
親の介護において、必要な場合は介護保険外サービスの利用も検討しましょう。介護保険サービスの利用には厳格な基準が設けられているため、場合によっては十分な支援を受けられない可能性があります。
介護保険外サービスには、自治体による支援制度や民間企業によるサービスなど、さまざまな種類があります。自治体が独自に実施している介護保険外サービスの例は、以下の通りです。
- おむつサービス
- 配食サービス
- 訪問理美容サービス
- 緊急通報システム など
具体的にどのようなサービスを利用できるかは、自治体によって異なります。市区町村の窓口を訪ねるか、ホームページや広報などで案内を確認しましょう。
地域包括支援センターを活用する
親の介護ができないときは、地域包括支援センターへの相談もおすすめです。
地域包括支援センターでは、保健師や社会福祉士、主任介護支援専門員などが介護に関する総合的な支援をおこなっています。
介護を必要とする状況は一人ひとり異なります。そのため、専門家から利用可能な支援制度や介護サービスに関するアドバイスをもらうことで、適切な対処がしやすくなります。
なお、親と離れて暮らしている場合には、支援対象となる親の居住地にある地域包括支援センターに相談するようにしてください。
要介護認定を受ける
介護保険サービスを利用するためには、要介護認定を受ける必要があります。要介護認定とは、支援対象者が具体的にどの程度の介護を必要としているかを公的に認定するための手続きです。
申請後、医師の意見書や認定審査などに基づき、要支援1・2、要介護1〜5の7段階で介護度が決まります。
介護を必要とする人は、要介護認定を受けることで、介護保険制度によるサービスの利用が可能です。なお、利用できる介護保険サービスや支給限度額などは、介護度によって異なります。
▼ 介護保険申請の流れを詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
介護保険申請のタイミングはいつ?失敗しないための手続きガイド
介護施設に入居してもらう
親の介護ができないときは、介護施設への入居も方法の一つです。介護施設では、専門スタッフが24時間体制で入居者の生活を支援しています。
介護施設には、以下のようなさまざまな種類があります。施設ごとに提供されるサービスや特徴が異なるため、適切な施設選びのためには十分な情報収集が必要です。
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 軽費老人ホーム
- ケアハウス
- 介護医療院
- 有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
なお、いいケアネットでは、老人ホーム探しのための入居無料相談を受け付けています。大阪を中心に全国各地の施設を紹介しているので、ぜひ気軽にご相談ください。
経済的余裕がないことを示す
経済的な理由によって親の介護ができないときは、公的制度を利用しましょう。親の介護に伴う経済的な負担は、多くの家族にとって大きな懸念事項です。日本には介護費用を軽減するために利用できるいくつかの公的制度や控除があります。
たとえば、介護費用の自己負担額を軽減するためには、高額介護サービス費と呼ばれる制度の利用が可能です。
また、介護保険の負担限度額認定制度を使うと、介護施設を利用する際の費用負担を減らせます。
▼ 高額介護サービス費について詳しく知りたい方、以下の記事を参考にしてください。
高額介護サービス費とは?基本や計算方法・手続きまでわかりやすく解説
親の介護に向けた事前準備
できるだけ早いうちから親の介護に向けた準備をしておくと、いざ必要なタイミングで対応しやすくなります。
以下で、親の介護に向けた事前準備のポイントを解説するので、ぜひ参考にしてください。
親族と方針などを打ち合わせておく
親の介護における方針や役割分担に関しては、事前に親族と打ち合わせしておけると安心です。子どもが一人で親の介護を背負うのは、精神的にも身体的にもとても大変です。介護の負担が一人に集中しないよう、以下の内容を中心に話し合いましょう。
- 本人の希望や介護の方針
- 介護における役割分担
- 外部サービスの必要性
- 意思決定者
それぞれが無理のない範囲内で役割を分担するとともに、介護の負担が大きくなった場合にどのように外部サービスを利用するかも話し合っておく必要があります。
財産の状況をシェアしておく
介護にあたって、親の財産状況を把握しておくことはとても大切です。親の財産状況がわかれば、介護にかかる費用を計画的に考えられるだけではなく、親が亡くなった後の相続手続きにも役立ちます。
具体的には、不動産や預貯金、保険など、親の財産を把握するとともに、遺言書の有無も確認しておきましょう。また、親の財産状況を整理したら、必要な情報を親族で共有しておくこともポイントです。
親が認知症になった際の財産管理を決めておく
親が高齢になると、認知症によって判断力が低下する可能性もあります。そのため、認知症の進行に備えて、親が自分で財産を管理できなくなった場合に、誰がどのように財産を管理し、生活のサポートをおこなうかを決めておくことが必要です。
具体的には、成年後見人を選任したり、任意後見契約を締結したりしておくと良いでしょう。事前に財産管理について決めておくと、親が認知症になった場合にも、家族間でのトラブルや混乱を避けてスムーズなサポートが可能です。
親の介護の負担を軽減する方法
親の介護には多くの責任とストレスを伴います。そのため、介護者がストレスを最小限に抑え、健康な心身を保つことは非常に重要です。
以下で、親の介護の負担を軽減する方法をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
ケアマネージャーに悩みを相談する
一人ですべての介護を担うことは不可能です。親の介護の負担を少しでも軽減するためには、ケアマネージャーに悩みを相談しましょう。一人で介護の全責任を負うと、親だけではなく介護者自身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。
一人でなにもかもを抱え込んだ結果、介護者自身が弱ってしまうと介護そのものを続けられなくなります。身内には相談しづらい内容も、ケアマネージャーであれば悩みを打ち明けやすいでしょう。休むときはしっかり休んで、第三者に話を聞いてもらうと、精神的な負担の軽減につながります。
介護に傾倒しすぎないようにする
親の介護においては、介護者自身のリフレッシュも大切です。
疲れが取れない、気持ちが晴れない場合は、介護によるストレスが溜まっているサインです。可能な範囲で自分の時間を確保してのんびり過ごしたり、趣味に没頭したりして意識的にリフレッシュを図りましょう。
また、介護の重要な視点として「自立を促す」ことが挙げられます。「親の世話だから」といった責任感からすべてを介助してしまうと、本来自力でできたこともどんどんできなくなってしまいます。
介護に傾倒しすぎてしまうと、結果的に親と子どもの双方にとってより大きな負担がかかってしまうケースも珍しくありません。正しい介護を続けるためにも、必要に応じて専門家へ協力を要請しましょう。
介護サービスに切り替える
親の介護をしていて疲れを感じたら、早めに介護サービスへの切り替えも検討してください。介護保険制度は、介護サービスの利用者と家族の負担を軽減するための制度です。日中の訪問介護やショートステイなどの短期宿泊サービスを利用できると、介護者の負担軽減につながります。
また、親の状況によっては介護施設に入所した方が安心して暮らせる場合もあります。どのような介護サービスを利用したら良いかわからない場合は、地域包括支援センターやケアマネージャーに相談すると、個別のアドバイスをもらえます。
親の介護をしないとどうなるかを事前に把握【まとめ】
今回は親の介護をしないとどうなるのか詳しく解説しました。
原則として、親の介護はしなければなりません。扶養義務は民法で定められており、親の介護をしないと保護責任者遺棄罪に問われる可能性があります。
ただし、民法が定める親の介護とは、直接的な介護を意味する言葉ではなく、経済的な支援をするだけでも義務を果たしているとみなされます。そのため、親の介護ができない状況にある場合は、決して無理をせず、訪問介護の利用や老人ホームへの入居などを検討しましょう。
大阪を中心に、多数の高齢者向けの介護施設の情報を掲載する「いいケアネット」では、老人ホームに関する疑問やまつわる情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中です。
親の介護に関するよくある質問
ここでは、親の介護に関するよくある質問をまとめました。
親の介護を施設に任せると罰せられる?
親を介護施設に預けたからといって罰せられることはありません。
なぜなら、必要に応じた支援をしているだけでも、扶養義務を果たしているといえるためです。また、親の介護を施設に任せると、介護者の負担軽減につながるだけではなく、親の社会参加の機会が増えるメリットもあります。
一人っ子で親の介護をしたくないけどどうすれば良い?
一人っ子だからといって、親の介護のすべてを負う必要はありません。
一人っ子で親の介護が難しいときは、介護サービスを活用したり、介護施設への入所を検討したりして、負担の軽減を図りましょう。
親の介護で人生が終わったと思わないためには?
一人で親の介護のすべてを抱え込まないよう、周囲に支援を求めることが大切です。
親の介護は精神的にも身体的にも大変です。家族や親族をはじめ、ケアマネージャーなどに相談しながら、必要なサポートを受けるようにしましょう。また、介護疲れを感じているときは、意識的にリフレッシュの時間を設けるようにしてください。

この記事の監修者
いいケアネット事務局
突然倒れた、転んで頭を打ったなど、ご自身やご家族の介護を身近に感じるきっかけはそれぞれです。 いいケアネットでは、いざという時のために役立つ介護の知識や介護施設についてご紹介します。