今まで健康だった家族に、いきなり要介護認定が降りたとき、なるべく早く特養(特別養護老人ホーム)に入ってほしいと考える方も多いのではないでしょうか。しかし、特養への入所判定は緊急度や必要性が重視されるため、早く申し込んだとしても入所は早くなりません。
そこで、本記事では、要介護度や在宅介護の困難さをどう伝えれば優先度が上がりやすいのか、具体的な5つの方法を中心に解説します。
特養への調査データなども交えて、入所判定のルールや緊急性をアピールするコツなどを押さえましょう。
特養に早く入れる5つの方法
特別養護老人ホーム(特養)の待機期間は地域や施設によって異なりますが、半年から数年かかる場合も少なくありません。少しでも早く入れる方法は、5つあります。
- 早くケアマネージャーや窓口に相談する
- 緊急度や特養へ入所が必要な理由を詳しく伝える
- 「ユニット型特養」にも申し込む
- 介護サービスやショートステイなどを積極的に利用する
- 入所申し込み後の変化を細かく特養に伝える
なるべく早くケアマネージャーや窓口に相談する
「在宅介護が限界かもしれない」と感じたら、まずは自治体や地域包括支援センターに相談し、ケアマネージャーとの入念な情報交換をしましょう。
ケアマネージャーはさまざまな特養入所事例を把握しており、インターネット上には出てこない施設の空き状況や待機状況を知っていることもあります。
適切な施設紹介や書類作成のポイントなども教えてくれるため、早めに報連相をして、最新の情報を共有してもらいましょう。
緊急度や特養への入所が必要な理由を詳しく伝える
特養は「今すぐ入所しないと大変な状況」と判断されるほど、入所が優先される傾向があります。
在宅介護が厳しい理由や状態の深刻度合いを数字も交えながら具体的に伝えることが重要です。
たとえば、以下のように実際の困りごとを挙げると説得力が増します。
- 家族が全員週5日のフルタイムで就労しており、日中に介護できる人がいない
- 母親は認知症があり、自宅にいても現在地がわからず、家族が誰なのかも判別がつかないときが多い
- 妻の介護をできるのは夫の自分だけだが、自分自身が持病を患っており、十分に妻の介護ができない
特養の申込書には自由記述や特記事項欄がある場合が多いので、可能な限り詳細を記入します。別紙を添付するケースもありますが、自治体によっては制限があるため、事前に確認してください。
実際に異物誤飲や転倒によるけがなどが発生しているなら、その経緯も詳しく伝えましょう。説明により「在宅では対応しきれない」と施設側に理解してもらえれば、優先度を高められる可能性があります。
「ユニット型特養」にも申し込む
より早く特養に入りたい場合、従来型(多床室)だけではなく「ユニット型特養」にも申し込むことをおすすめします。
ユニット型特養は個室でプライバシーが守られ、設備や人員配置が手厚い分、費用がやや高い施設です。しかし、一般財団法人日本総合研究所が令和2年に行った調査によると、地域密着型を含めユニット型の特養施設数が多床室の19倍近く存在するとわかりました。多床室型の特養より母数が多いユニット型特養であれば、入所できる可能性があります。
ユニット型特養は多床室より割高ですが、その分入居者は快適に過ごせます。予算内に収まるのであれば、検討する価値はあるでしょう。
入所先候補を増やせば増やすほど、空きが出た施設を見つけられる可能性は高いです。
参考: 特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査研究報告書 | 一般財団法人日本総合研究所
介護サービスやショートステイなどを積極的に利用する
令和5年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査研究」では、ショートステイやデイサービスなどの介護サービス利用実績が多い人ほど、特養への入所が必要であると判断されやすい傾向があるとわかりました。
特養に併設されている介護サービスを利用していると、職員が利用者の状態を直接見極められるため「早期に入所が必要なケース」と認知されやすいです。
さらに、訪問介護や通所介護を利用すると実際の介護度や困難さを具体的に伝えやすくなり、入所優先度が高まる可能性があります。
参考:特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査研究 報告書 | 密美辞UFJリサーチ&コンサルティング
入所申し込み後の変化を細かく特養に伝える
特養側から、入所希望者の容態確認は基本的におこなわれません。
入所待機期間中に入所希望者の容態が変わった場合には、その旨を自発的に伝える必要があります。
たとえば、要介護度が上がったり、介護者の環境が悪化したりするなど、入所を急ぐ変化があれば、必ず自分から特養へ報告しましょう。
変化が起きても連絡がなければ、特養からは「申し込み当初の容体のまま」と認識されるため、入所の優先度が上がらない可能性があります。
申し込み後の情報量は、入所スピードを左右する重要なポイントです。こまめに特養と連絡を取りましょう。
特養に早く入るために知っておきたい2つのポイント
特養の空き状況は常に変動しており、単に「待つ」だけでは早く入れないでしょう。
情報を集めつつ、積極的に特養に早く入る必要性をアピールしなければなりません。
ここでは、特養に入るために押さえておきたい2つのポイントを解説します。
受け身ではなく自分から積極的に情報収集する
- 入所の可否は、申込先の施設や自治体の基準、空き状況によって大きく変わります。
- ケアマネージャーや自治体から連絡が来ることを待つだけでは、優先度が高い方々に埋もれてしまい、入所のチャンスを逃してしまうでしょう。
- 自分からこまめに問い合わせたり、空き状況システムを毎日確認したりするなど、自発的に情報収集してください。
また、自治体のホームページには、新しく開設する予定の特養に関する情報が公開されていることも多くあります。常日頃から特養に関する情報を調べるようにしましょう。
特養入所を決めているのは基本的に施設側
令和5年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査研究」では、自治体が入所判定の順位付けを行う地域もわずかにあるとされています。
しかし、実際には83.7%の市区町村が「施設が独自に入所判定をおこなっている」と回答しました。
特養に入所できるかどうかは、最終的に施設の判断にかかっています。
施設側に「この入所希望者は優先的に入所させる必要がある」と判断してもらうためには、書面上だけでなく、ショートステイやデイサービスなどを利用して実際の介護度を把握してもらうのも効果的です。
また、複数の施設に申し込めば、どれかの施設で空きが出たタイミングに入所しやすくなります。特養への早期入所を目指すなら、ただ申し込むだけではなく、施設スタッフと密にコミュニケーションを取りましょう。
参照:特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査研究 報告書 | 密美辞UFJリサーチ&コンサルティング
特養への具体的な申し込み方法
特養への申し込みは、まず自治体や地域包括支援センターに相談して、希望施設の候補をリストアップし、施設に直接申し込むのが一般的です。
多くの場合は申込書を取り寄せ、そこに次のような内容を記入して提出します。
- 基本情報
- 要介護度
- 在宅介護の状況
事前の見学を受け入れている施設もあるため、必要に応じて施設に見学希望を出すのもおすすめです。
ケアマネージャーが書類作成をサポートしてくれるケースもあるため、不明点があれば積極的に相談しましょう。
申込書だけではなく、緊急度を示す資料を添付して詳しい状況を伝えておくと、入所の優先度が高まる場合があります。
申し込み後は待機リストに掲載され、空きが出た時点で施設の入所判定委員会などで審査されるのが一般的です。
なお、施設によっては申し込み後に本人と面談する施設もあります。
特養に入れなかった場合の預け先
特養への早期入所が難しい場合は、特養以外の選択肢として以下の3つの預け先を検討してみてください。
- ショートステイ
- 有料老人ホーム
- 介護老人保健施設(老健)
以上のサービスは・施設は介護保険制度で利用でき、特養とは少し性質が異なります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
ショートステイ
ショートステイは短期間だけ特養や老健などに滞在し、介護や日常生活の支援を受けられるサービスです。
特養は原則として要介護3以上の方を対象としていますが、ショートステイは要介護認定を受けている方であれば誰でも利用できます。
特養の空きが出るまでの一時的な措置として活用できるだけではなく、実際に施設の雰囲気や相性、サービスの質を確かめるチャンスにもなるのがポイントです。
ただし、利用日数に限度があったり、希望日程に必ずしも利用できるとは限らなかったりするため、利用したい場合は施設へ事前に相談しましょう。
有料老人ホーム
民間運営の有料老人ホームは介護付きや住宅型などタイプが複数あり、サービス内容や費用、入居条件は施設によって大きく異なります。
たとえば、要介護度が高い方を対象とする「介護付き」もあれば、自立度の高い方向けの「住宅型」など、施設によってサービスはさまざまです。
個室を設けている施設が多いため、プライバシーを重視したい方には、多床室の特養よりも相性が良い可能性があります。
一般的に、有料老人ホームは特養よりも入居一時金や月額利用料が高額になりやすいのが特徴です。一方で、入所までの待機期間が短い傾向があるため「すぐに入所したい」と考える方におすすめです。
関連記事:特別養護老人ホーム(特養)と有料老人ホームの違いとは?特徴を比較
老健(介護老人保健施設)
老健(介護老人保健施設)はリハビリを中心に提供する、要介護認定を受けている方なら誰でも利用できる施設です。
老健は特養よりも入所期間が短く設定されており、短期間で集中的にリハビリしながら「在宅復帰」を目指します。
医師や看護師、リハビリ専門職などが常駐しているため、医療面のサポートが手厚いのも特徴のひとつです。
老健は退院後に在宅で日常生活を送ることを目的としているため、要介護度が比較的、軽度~中等度の方向けの施設です。
しかし「特養が空くまでの中継施設」として老健を利用するケースも少なくありません。特養入所までの待機期間には老健に入所する選択肢もあるため、検討の余地はあるでしょう。
特養に入れなかった場合は他の施設入所を検討しよう
特養は待機期間が長く、自ら行動を起こさなければ、入所が早まることはありません。少しでも早く入れたいと考えた場合は、以下の5つの方法を試してみましょう。
- なるべく早くケアマネージャーや窓口に相談する
- 緊急度や特養への入所が必要な理由を詳しく伝える
- 「ユニット型特養」にも申し込む
- 介護サービスやショートステイなどを積極的に利用する
- 入所申し込み後の変化を細かく特養に伝える
ただし、それでも特養に入れなかった場合は、別の選択肢を考える必要があります。
候補としてショートステイや有料老人ホーム、老健がありますが、どの施設が入所希望者の容態に合っているかを考えて選ばなければなりません。
どのような基準で施設を選ぶべきかわからないときは、なるべく早く入所できるよう専門家に相談してみましょう。

この記事の監修者
いいケアネット事務局
突然倒れた、転んで頭を打ったなど、ご自身やご家族の介護を身近に感じるきっかけはそれぞれです。 いいケアネットでは、いざという時のために役立つ介護の知識や介護施設についてご紹介します。