「高齢の親が風邪をひいているようだけれど、なかなか治らなくて心配」
「咳が続いているが、風邪なのか肺炎なのか見分けがつかない」
このような不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。
風邪と肺炎は初期症状が似ているため混同されやすいですが、その重症度や身体への影響は大きく異なります。
とくに高齢者にとって、肺炎は生命を脅かす可能性のある深刻な病気です。適切な対応が遅れると重篤な合併症を引き起こす場合があります。
本記事では、風邪と肺炎の基本的な違いを詳しく解説します。肺炎を放っておくリスクや治療法も紹介しているので、理解を深めて適切な対処に役立ててください。
風邪と肺炎の違い【比較表あり】

風邪と肺炎のもっとも基本的な違いは、病原体が感染する部位です。風邪は主に鼻腔や喉といった上気道に感染が起こりますが、肺炎は肺の奥深くの肺胞という組織に感染し炎症が生じます。
肺炎の初期症状は風邪とよく似ているため見分けが困難ですが、症状の強さや経過に違いが見られます。以下の表では、風邪と肺炎の主な違いをまとめました。
| 項目 | 風邪 | 肺炎 |
| 感染部位 | 鼻、喉(上気道) | 肺(肺胞) |
| 主な原因 | ウイルス | 細菌、ウイルス、真菌など |
| 発熱 | 微熱~38℃程度 | 38℃以上の高熱が多い |
| 咳 | 乾いた咳、軽い痰 | 激しい咳、黄色や緑色の膿性の痰 |
| 呼吸の状態 | 軽度な鼻づまり程度 | 息切れ、呼吸困難、胸痛 |
| 全身症状 | 比較的軽度な倦怠感 | 強い倦怠感、食欲不振 |
| 症状の経過 | 数日~1週間で軽快 | 長引いたり悪化したりしやすい |
特に高齢者は症状が出にくく、風邪だと思っていたら、実は肺炎という場合もあります。軽く考えずに、医師の診察を受けましょう。
肺炎の症状|風邪との見極め方

ここからは風邪と間違えやすく、見逃すと危険な肺炎について詳しく説明します。
以下は肺炎の主な症状です。
- 激しい咳
- 黄色や緑色の痰
- 38℃以上の高熱
- 息切れや胸の痛み
- 強いだるさなど
- 風邪よりも重く全身に影響する
しかし高齢者は免疫力の低下や持病の影響で肺炎にかかりやすく、典型的な症状が出にくい場合も少なくありません。
発熱や咳が目立たず、以下のような普段との違和感が肺炎のサインとなることもあります。
- 「なんとなく元気がない」
- 「食欲がない」
- 「ぼんやりしている」
- 「口数が減った」など
このような変化が見られたときは、早めに医療機関を受診しましょう。風邪に似た症状でも肺炎が隠れている可能性があります。
関連記事:高齢者の肺炎について詳しく解説!
【本当にただの風邪?】肺炎を放っておくリスク

適切な治療を受けずに肺炎を放置すると、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。特に高齢者や基礎疾患を持つ方では、そのリスクが一層高いです。
以下は肺炎における代表的な合併症です。
- 呼吸不全
- 敗血症
- 肺膿瘍
- 胸膜炎・膿胸
- 心血管系合併症
- 腎機能障害
- 多臓器不全 など
これらの合併症は生命を脅かす深刻な状態につながる恐れがあります。「ただの風邪」と軽視せず、症状が長引く場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
肺炎の治療方法|何日で治るのかも解説

肺炎の治癒期間は以下の要因によって大きく左右されます。
- 患者の年齢や免疫力
- 原因病原体の種類
- 重症度
- 基礎疾患の有無
たとえば軽症の細菌性肺炎で適切な治療が早期開始された場合、通常1週間程度で症状は改善し始め、2~3週間で治癒しやすいです。
一方、重症の肺炎や高齢者の場合は回復に時間がかかる傾向にあります。数週間から数カ月を要するケースは珍しくありません。
高齢者は誤嚥性肺炎の可能性も高い

高齢者の肺炎のうち7割以上を占めるのが「誤嚥性肺炎」です。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物、唾液などが気管に入り、そこにある細菌が肺に感染して起こる肺炎です。
高齢者は、加齢により飲み込む力(嚥下機能)や、異物を咳で外に出す力が低下することで誤嚥が起こりやすくなり発症率が高まります。
とくに、脳血管障害の後遺症、認知症、寝たきりの方は、異物が気道に入った時に、咳をして排出する反射機能が弱まるため、より誤嚥性肺炎のリスクが高いです。
誤嚥性肺炎は一度発症すると嚥下機能がさらに低下し、再発を繰り返す悪循環に陥ることもあります。
予防のために食事中は正しい姿勢を保ち、むせやすい食べ物を避けるなどの対策を心がけましょう。
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高齢者の肺炎予防のためにできること4選

高齢者の肺炎予防には以下4つのような、多角的なアプローチが効果的です。
- 手洗い・うがい・口腔ケア
- RSワクチン接種
- 栄養バランスのとれた食事・睡眠の確保
- 誤嚥対策
それぞれの対策について、具体的な実施内容を見ていきましょう。
手洗い・うがい・口腔ケア
感染対策として代表的な手洗いとうがいは肺炎予防の基本です。外出後、食事前、トイレ後などには流水と石鹸で15~20秒以上かけて丁寧に手洗いを行いましょう。うがいも口腔内や喉に付着した病原体を洗い流す効果があります。
口腔ケアは誤嚥性肺炎予防においても、極めて重要です。毎食後の歯磨き、舌の清掃、義歯の清掃、うがい、口腔内の保湿を徹底し、口腔内細菌を減らすことで誤嚥時の感染リスクを低減できます。
なお、誤嚥するのは食事時だけではありません。口腔内やのどに多くの細菌やウイルスが存在する状態を放置しておくと、夜間睡眠中などに起こる誤嚥によって肺炎にかかるリスクが高くなります。
そのため、いつも口の中をきれいにしておくこと(口腔ケア)が大切です。口腔ケアによって、口腔内の細菌やウイルスを減らしましょう。
関連記事:知らないと怖い!?正しい口腔ケアの方法をご存知ですか?
RSワクチン接種
RSウイルスは、特に高齢者や基礎疾患のある方にとって、気管支炎や肺炎を引き起こしやすく、重症化のリスクがあるウイルスです。
2023年からは、高齢者向けのRSウイルスワクチンが利用可能になりました。
60歳以上の方や慢性肺疾患などを持つ重症化リスクの高い50歳以上の方に、任意接種として推奨されています。
肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンと一緒に接種することで、肺炎など呼吸器感染症への予防効果がより高まると期待されているワクチンです。50代で持病がある方は早めにワクチン接種を検討しましょう。
栄養バランスのとれた食事・睡眠の確保
栄養状態が悪くなると、免疫力が落ち肺炎にかかりやすくなります。
毎日バランスよく食べるようにしましょう。高血圧や糖尿病などで食事指導を受けている方は、その指導内容に従ってください。
睡眠も体の抵抗力(免疫力)を高めるために欠かせません。1日平均7〜8時間程度の質のよい睡眠をとるようにしましょう。
誤嚥対策
誤嚥性肺炎を防ぐには、誤嚥しないための環境づくりが大切です。
具体的な対策は以下のとおりです。
- 一口の量を少なめにしてゆっくり食べる
- 刻み食やとろみを加えて食べ物の形を調整する
- 背筋を伸ばしあごを軽く引いた正しい姿勢で食事をする
言語聴覚士や歯科医などの専門家に相談すると、相談者の飲み込み能力や身体状況に合った具体的なアドバイスがもらえます。一人ひとりに適した対策を進めていくためにも、専門家への相談を検討してみてください。
関連記事:嚥下訓練のパタカラ体操とは?効果や目的・具体的なやり方を解説
高齢者の長引く風邪は肺炎を疑おう【まとめ】

咳や発熱が続くとき、「風邪だろう」と軽く見てしまいがちです。
しかし肺炎の場合、放置すれば命に関わる合併症を引き起こすこともあります。
本記事を参考に、風邪と肺炎の違いを正しく理解して、早期の受診につなげてください。
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監修者 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長会 斉藤 正行
一般社団法人全国介護事業者連盟理事長。立命館大学卒業後、複数の介護関連企業で要職を歴任し、日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。講演活動やメディア出演も多数。






