「老人ホームに入所させるときに支払う入居一時金は戻ってくるの?」
「敷金との違いは何?」
親の老人ホーム入居を考える中で、このような疑問に悩まされる方は少なくありません。
老人ホームの入所には初期費用で、入居一時金と敷金が発生する場合があります。この2つの費用はよく混同されがちですが、入居一時金は「前払い家賃」であり、敷金は原則返還される「預かり金」です。
介護施設の入所における費用トラブルはよくある事例です。思わぬトラブルに発展しないように、契約時に支払う費用の理解を深めておきましょう。
本記事では、入居一時金の本質や返還条件、敷金との違いを詳しく解説します。解説します。
契約書の内容に関するポイントも紹介しているので、参考にしてみてください。
入居一時金と敷金の違い
老人ホームの入居にかかる初期費用としてよく聞くのが「入居一時金」と「敷金」です。
2つの費用には、大きく分けて以下のような違いがあります。
- 入居一時金:老人ホームに入所時に支払う前払い家賃
- 敷金:契約終了時の原状回復費用を担保する預かり金
どちらも入居前に支払うお金ですが、徴収する目的や性質は大きく異なります。
それぞれの目的の理解を深めて、違いを知っていきましょう。
入居一時金とは|老人ホームに入所時に支払う前払い家賃
入居一時金とは、有料老人ホームに入るときに支払う初期費用で、居室や共用施設の利用権に対する「家賃の前払い」のような費用です。
施設によって金額は異なり、0円から数千万円と幅があります。
民間の高齢者施設では、この一時金で建設費や設備投資をまかなうため、設備が充実した都心の施設ほど高額になりやすいです。
一方、公的な特別養護老人ホームでは入居一時金は原則必要ありません。
入居一時金には「償却期間」があり、通常3〜7年に設定されます。この期間内に退去すると、未使用分が返金される仕組みです。
支払い方法は「全額前払い」「一部前払い」「入居金なし」の3つがあり、プランによって月額費用が変わります。
以下はプランごとの仕組みをまとめた表です。
プラン名 | 支払いタイミング | 月々の家賃 | プラン概要 |
全額前払い | 入居時に想定入居期間分をまとめて前払い | 0円 | 想定される入居期間分の家賃をまとめて入居時に支払うことで、以降の月々の家賃が発生しないプラン |
以前の | 入居時に家賃の一部を前払い | 割安になる | 前払いした分だけ月々の家賃が割安になるプラン |
入居金なし | 入居時の一時金不要、毎月家賃を通常通り支払い | 全額支払い | 入居時の一時金(前払い)が不要で、毎月の家賃を全額支払うプラン |
それぞれのプランごとに特徴があるため、費用の負担や将来のライフプランに応じて選べます。
関連記事:有料老人ホーム入居の一時金(前払金・入居金・敷金)や月額費用、契約について
償却の仕組み
入居一時金の償却方法は「初期償却」と「定期償却」の2つがあります。
初期償却は入居時に一部を即時償却する方法で、施設により割合は違います。
2012年の法改正以降、新規契約での初期償却は原則禁止され、日割り償却が義務化されました。
定期償却は残額を期間で分割し、「定額償却」は毎月同額、「定率償却」は一定率で償却します。
施設を選ぶ際は、償却方法や契約内容を念入りに確認しましょう。
敷金とは|契約終了時の原状回復費用を担保する預かり金
敷金は一般的な賃貸契約と同様、老人ホームにおいても契約終了時の原状回復費用を担保するための預かり金です。
入居の際に家賃の数ヶ月分を預け、退去時に原状回復費用などを差し引いた残額が返還されます。
入居一時金と敷金の最大の違いは、敷金は原則として全額が返還対象(修繕費等を除く)であるのに対し、入居一時金は償却されて減少していく点です。
老人ホームの場合は通常の賃貸と違い、特殊なルールがある場合もあるため、契約前に敷金の取り扱いについても念入りに確かめましょう。
入居一時金と敷金が返還されるケース
入居一時金と敷金は、状況に応じて変換される場合があります。
- 入居一時金の未償却分がまだ残っている場合は差額が返還される
- 敷金は退去時に原状回復費用などを差し引いた残額が変換される
これらの違いを見ていきましょう。
入居一時金の場合
入居一時金が返還されるケースは主に以下の3つです。
- クーリングオフ(短期特例解約)期間内の解約:契約から90日以内に解約した場合は、初期償却はおこなわれず、実際に滞在した日数分の費用などを差し引いた金額が返金されます。違反した施設には都道府県からの改善命令や罰則が科される場合があります。
- 償却期間内の退去:償却期間内に退去した場合は、未償却分の入居一時金が返金されます。2012年の法改正により、入居から3ヶ月経過後に契約が終了した場合でも、想定居住期間の残りについては日割りで計算された金額の返還が義務付けられました。
- 施設の倒産時:2018年4月の改正老人福祉法により、施設が倒産した場合でも、未償却分の入居一時金が最大500万円まで返還される仕組みが導入されました。以前は倒産によって入居一時金が戻らないケースもありましたが、入居者を守るための保全措置として制度が改善されています。
入居一時金の返還額は、退去する時期や契約内容によって異なります。たとえば、入居一時金が600万円で初期償却30%(180万円)、償却期間が5年(60ヶ月)の場合、月々の償却額は7万円です。
この条件で2年(24ヶ月)で退去すると、初期償却180万円と月々の償却額168万円(7万円×24ヶ月)を差し引いた未償却分252万円が返還される計算になります。
敷金の場合
敷金は、退去時に原状回復費用などを差し引いた上で、残りの金額が返還されます。
基本的には「預かり金」のため、特別な損傷や汚れがなければ全額返ってくるのが原則です。
部屋をきれいな状態で返せば、返還額が多くなる可能性もあります。
シニア向け施設でも一般の賃貸契約と同様に、原状回復や家賃の滞納がなければ、敷金は全額返金されるのが一般的です。
入居一時金や敷金に関するトラブル回避策
入居一時金や敷金は、支払いや返還に関してトラブルが起きやすい費用です。
トラブルを回避するためのポイントは、大きく分けて3つあります。
- 契約書の条文を細かく確認する
- 入居一時金の返還金受取人を確認しておく
- 敷金から差し引かれる条件をチェックする
未然にトラブルを回避できるよう、それぞれで意識すべき点をチェックしましょう。
契約書の条文を細かく確認する
入居一時金や敷金に関するトラブルを防ぐには、契約書の細部まで確認が大切です。
とくに初期償却の有無や償却期間、返還金の算定方法は施設ごとに異なるため、実際に署名する契約書や重要事項説明書に明記されているかを確認しましょう。
疑問点は必ず書面で確認し、説明を受けてください。
また、返還金の受取人や相続に関する条文がある場合は、法的な影響も考慮して家族と情報を共有しておきましょう。
さらに、以下のようなポイントも確認しておくとより安心です。
- 倒産時の保全措置や返還保証制度
- 退去や死亡時の返還金の扱い
- 介護費用や月額利用料の変更時の対応など
厚生労働省や消費者庁、自治体が出している資料を参考に、最新情報の把握も安心につながります。
入居一時金の返還金受取人を確認しておく
入居一時金の未償却分が残ったまま入居者が亡くなった場合、返還金の受取人が誰になるかをあらかじめ確認しておきましょう。
相続の問題に関わってくるため、家族間でトラブルになる可能性がゼロではありません。
施設の取り決めによって受取人が変わる可能性があるため、契約時に確認し、必要に応じて契約書への明記をおすすめします。
入居者本人の意向や家族の状況を踏まえて、誰が返還金を受け取るのかを事前に決めておくと、将来的なトラブル予防につながります。
敷金から差し引かれる条件をチェックする
敷金も、どのような場合に差し引かれるのかを事前に確認しておきましょう。
通常の賃貸契約と同様に「通常使用による経年劣化」は敷金から差し引かれないのが原則です。
しかし、老人ホームでは特殊な事情により多額の原状回復費を請求されるケースは珍しくありません。
どのような状態が「原状回復が必要」と判断されるのか、また原状回復費用の相場がどれくらいかの事前理解が鍵になります。
高額な請求を受けた場合には、内訳をしっかり確認し、請求内容や金額の妥当性を調べておきましょう。
入居一時金と敷金の違いを理解した上で適切に施設を選ぼう【まとめ】
老人ホームへの入居を考える際は、入居一時金と敷金の違いの正しい理解が重要です。入居一時金は「家賃の前払い」として償却されるのに対し、敷金は「預かり金」であり、原則として退去時に返還されます。
施設を選ぶ際は、一時金の有無や金額だけでなく、初期償却の割合や期間、返還条件を細かく確認し、契約書や重要事項説明書の内容にもしっかり目を通しておきましょう。納得できない点は必ず質問し、理解した上での契約が安心につながります。
総合的に判断してご家族に最適な施設を選びたい場合は、大阪を中心とした高齢者向け施設情報を掲載する「いいケアネット」をご活用ください。
無料登録で気になる施設の入居条件・費用・空室状況を確認できるので、まずはどんな施設があるかをチェックしてみましょう。
監修者 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長会 斉藤 正行
一般社団法人全国介護事業者連盟理事長。立命館大学卒業後、複数の介護関連企業で要職を歴任し、日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。講演活動やメディア出演も多数。