高齢の親御さんと同居している方のなかには「住民税の負担を減らしたい」と考えて世帯分離を検討する方もいるでしょう。
世帯分離をすると、税負担が軽減される可能性がある一方で、国民健康保険料が増えてしまったり、扶養控除が受けられなくなったりするリスクもあります。
本記事では、世帯分離で後悔しやすいケースを具体的に解説します。世帯分離を検討されている方の判断材料として参考になるので、ぜひ最後までお読みください。
世帯分離とは一つの世帯を住所変更せずに複数の世帯に分けること
世帯分離とは、同じ住所に住みながら、住民票上で世帯を分けることです。
通常、同一住所で生計を共にする家族は一つの世帯ですが、世帯分離をするとそれぞれが世帯主となり、別々の世帯として扱われます。
世帯分離によって住民税や介護にかかる費用を抑えられる可能性がある一方で、条件によっては負担が増えてしまうこともあります。
世帯分離に関する詳しい解説は、以下の記事をご参照ください。
関連記事:世帯分離とは?メリット・デメリット、手続き方法をわかりやすく解説
世帯分離で後悔する4つのケース
ここでは、世帯分離をすることで後悔する可能性のある、代表的な4つのケースをご紹介します。
国民健康保険料が増加する場合がある
国民健康保険の場合、世帯分離で保険料総額が増加する可能性があります。国民健康保険料は前年度の所得や世帯の人数によって計算されるほか、世帯ごとに定額負担する「平等割」という費用もあることに注意が必要です。
世帯分離で親の世帯が新たに発生することで、平等割の金額分だけ保険料が上乗せされることになります。ただし、自治体によっては平等割がない場合もあるため、お住まいの市区町村の窓口で確認する必要があります。
扶養控除や手当が喪失する
世帯分離によって親が税法上の扶養から外れると、所得税の扶養控除や会社からの扶養手当などが受けられなくなる可能性があります。
とくに70歳以上の親を扶養している場合、所得税の控除(通常48万円、同居の場合は58万円)が受けられなくなる点には注意が必要です(文献1)。
また、多くの会社では、世帯分離をすると扶養手当や家族手当が打ち切られます。
さらに、75歳未満の場合は、後期高齢者医療制度ではなく国民健康保険に加入することになるため、新たに保険料の支払いが必要になります。
世帯分離を検討する際は、事前に会社の人事担当者や税理士に相談するのがおすすめです。
高額療養費制度の合算対象外になる
世帯分離により、高額療養費制度の世帯合算のメリットを失う可能性があります。
この制度は、医療費の自己負担額が高額になった場合、一定額を超えた分が払い戻される仕組みです。
同一世帯であれば家族の医療費を合算して自己負担上限額を計算できますが、世帯が別になると、それぞれの世帯で個別に計算することになります(文献2)。
そのため、医療費の自己負担額が上限を超えにくくなり、払い戻し額が減少する可能性があります。
とくに、家族に医療費がかかりやすい方がいる場合は慎重な検討が必要です。
手続きが煩雑になる
世帯分離の手続きには、複数の書類への記入や市区町村窓口での申請が必要です。
世帯変更届や本人確認書類に加え、生計が別であることを証明する書類など、準備すべき書類は多岐にわたります。
また、高齢の親が手続きに同行できない場合は委任状も必要になります。
手続きに不備があると申請が受理されない可能性もあるため、事前に市区町村の窓口やホームページで必要書類を確認するといった十分な準備が重要です。
世帯分離で後悔したら元に戻すことも可能
世帯分離をしたけれど「やっぱり元に戻したい」と思うこともあるかもしれません。
世帯分離をした後でも「世帯合併」という手続きで元の世帯に戻すことができます。
世帯合併の手続きは、住民登録をしている市区町村の窓口で行います。
また、手続きの際には以下の書類が必要です。ただし、自治体によって異なる場合があるため、事前に確認しましょう。
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 国民健康保険証
- 世帯主との続柄を証明する書類(戸籍謄本、戸籍抄本など)
ただし、世帯合併の手続きは変更が生じた日から14日以内に行う必要があります。
また、世帯分離の理由が不適切だった場合や生計が実際には別になっていなかった場合は、世帯合併の申請が認められないこともあります。
世帯分離のメリットが大きい人の特徴3選
世帯分離をすることで後悔するケースがある一方で、条件によってはメリットの方が大きくなるケースもあります。
ここでは、世帯分離を検討する価値がある3つのケースについて解説します。
親の収入が少なく、同居家族の収入が高い場合
親の年金収入が少ない(たとえば155万円以下)一方で、子の収入が高い場合は、世帯分離をすることで、親の世帯が住民税非課税世帯になる可能性があります。
住民税非課税世帯になると、介護保険料や医療費の負担が軽減されることがあります。
世帯を分離することでそれぞれに適した負担額になる場合もあるでしょう。
介護保険サービスを利用している場合
介護保険サービスを利用している場合、世帯分離によって経済的メリットが大きいことがあります。
世帯分離によって親世帯の所得が低くなれば、介護保険の負担割合(1〜3割)が下がるケースもあるでしょう。
また、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護保険施設への入所やショートステイを利用する際に、食費・居住費の負担額が大幅に軽減される可能性もあります。
親世帯が各種給付金の対象となる可能性がある場合
世帯分離で親世帯が住民税の非課税世帯になると、各種給付金や支援制度を利用できる可能性が広がります。
たとえば、光熱費の負担軽減策や福祉関連の給付金、自治体独自の生活支援・住宅改修補助金などを受けられることがあります。
高齢者向けの支援は非課税世帯を対象としているものが多いため、世帯分離のメリットは大きいでしょう。
まとめ|世帯分離は慎重な判断と事前確認が成功のカギ
世帯分離は、一つの世帯を住民票上で二つに分ける制度です。住民税を抑えられると考えて安易に手続きすると、国民健康保険料や扶養控除・諸手当の喪失などによって後悔することもあります。一方、状況次第で費用負担が軽減される可能性もあるため、本記事を参考に、慎重な判断と事前確認を行いましょう。
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世帯分離で後悔しないためのよくある質問
世帯分離は親子で同居していてもできますか?
同居している親子でも世帯分離の手続きは行えます。
ただし、生計が別である、それぞれの収入で独立して生活しているなど、一定の条件を満たす必要があります。
詳しい条件は、お住まいの市区町村の窓口で確認しましょう。世帯分離は、同居・別居に関わらず、生計が別であれば認められます。
世帯分離のベストなタイミングはいつ?
世帯分離のタイミングは、個々の状況によって異なりますが、介護保険サービスの利用開始時や、親が施設に入所するときなどが一つの目安となります。
これらのタイミングで世帯分離をすることで、介護保険サービスの自己負担額や施設利用料を軽減できる可能性があるためです。
サービスの利用を開始する前に、サービスを提供する事業所や担当のケアマネジャーへ相談するのがおすすめです。
参考文献
(文献2)
厚生労働省
高額療養費制度を利用される皆さまへ (1)世帯合算
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/100714a.pdf#page=

この記事の監修者
いいケアネット事務局
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