特養(特別養護老人ホーム)の運営において、赤字が深刻な問題となっています。
実は、特養の約3〜4割が赤字経営に陥っており、多くの場合で介護スタッフを含む人員不足や入居者の減少、原油価格や物価の高騰が原因です。
特養の赤字経営が続くと、施設の存続が危ぶまれ、運営会社が変わったり施設が閉鎖されたりするケースもあります。
そこで本記事では、特養が赤字経営になる原因について深掘りし、具体的な対策を網羅的にお伝えします。
集客力を高めて入居希望者を集めるための広告でお悩みの経営者に向けたおすすめの手段も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
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特養(特別養護老人ホーム)の3〜4割が赤字
特養(特別養護老人ホーム)は、独立行政法人福祉医療機構の調査結果によると、2023年度は以下の通り3〜4割の施設が赤字経営です。
引用:独立行政法人福祉医療機構|2023 年度 特別養護老人ホームの経営状況について
上記、従来型とユニット型の違いは、入居者が生活する部屋の形態や介護スタッフの対応範囲による違いがあります。
従来型 | ユニット型 | |
---|---|---|
入居する部屋 | 大部屋で共有 | 個室 |
介護スタッフの配置 | 施設全体 | ユニット単位(個室数) |
月額利用料の相場 | 25,000円前後 | 60,000円前後 |
特養の従来型とユニット型は、地域や立地などにもよりますが、価格の違いは2倍近くの差が離れています。
入居者の負担が増える分、従来型よりユニット型は特養への入居を希望する方が少ない傾向です。
公益社団法人全国老人福祉施設協議会も同年2023年に「令和4年度全国老施協収支状況等調査」で、以下の数値を公表しています。
引用:公益社団法人全国老人福祉施設協議会|令和4年度全国老施協収支状況等調査
上記の通り、補助金を利用した特養でも、半数以上の施設が赤字に悩まされているのです。
特養の赤字問題は介護業界全体の構造的な課題を反映しており、原因の究明はもちろん、適切な対策を講じなければいけません。
特養の赤字が続く原因
特養の3〜4割が赤字経営になっているのも、主に以下が原因になっています。
- 介護スタッフを含めた人員不足
- 入居者の不足
- 原油価格や物価の高騰
自分が経営する特養に赤字の原因が含まれているか、見出すための参考にしてください。
原因1.介護スタッフを含めた人員不足
特養が赤字に陥る大きな原因の1つに、介護スタッフを含めた人員不足があります。
介護施設には厚生労働省が定めた「人員配置基準」に準じたスタッフを配置する必要があり、以下の人員を確保しなければいけません。
引用:厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」
なお、介護職員の人員確保は年々深刻化しており、公益財団法人介護労働安定センターが2024年7月の調査結果によると、以下の結果が出ています。
- 平均採用率:16.9%
- 平均離職率:13.1%
事業所ごとで見ると、採用率が10%未満の施設が43.3%もあるのが明らかになっており、介護スタッフの定着以前に、採用までに至らない深刻さがあります。
人員が不足すると、一人当たりの業務負担が増え、スタッフのストレスや疲労が蓄積されてしまうのです。
職場の雰囲気を悪化させる事態につながり、退職者を増やす悪循環になってしまいます。
また、入居者に対するケアの質が低下する可能性もあり、施設の評判に影響を与え、入居希望者の減少から赤字になってしまうのです。
参考:公益財団法人介護労働安定センター|令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について
原因2.入居者の不足
特養の赤字が深刻化する原因には、入居者の不足も挙げられます。
多くの特養は、入居者からの利用料金を主な収入源としていますが、入居者が少ないと収入が減少し、経営に大きな影響を与えます。
また、施設自体の老朽化や利便性の低下も、入居希望者の減少につながる原因の1つです。
特養だけでなく有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、ほかの選択肢が増えたため入居者が分散し、特養の稼働率が下がるケースも増えています。
多くの原因から特養は入居者不足に陥り、収益が減少して赤字が続くリスクが高まっているのです。
原因3.原油価格や物価の高騰
特養の赤字が増加する原因には、原油価格や物価の高騰も深くかかわっています。
たとえば暖房や給湯、調理などのエネルギー源として大量の燃料を必要とするため、原油価格の変動は燃料費の高騰につながります。
2024年、独立行政法人福祉医療機構の調査結果でも、59%の施設で物価高騰が原因の1つとして経営に影響が出ていると回答しました。
影響を受けていると回答した施設のうち、63.1%が水道光熱費、次いで59.5%が給食費との調査結果が公表されています。
つまり、特養を含めた介護施設を運営する上で必要なコストに対し、原油価格や物価の高騰が赤字につながる原因の1つになっているのです。
参考:独立行政法人福祉医療機構|社会福祉法人経営動向調査の概要
関連記事:潰れる介護施設の特徴5選!失敗しない施設選びのポイントも解説
特養が赤字で倒産してしまうとどうなるのか
特養の赤字経営が続き、運営会社が倒産すると運営会社が変わったり、入居基準が変わる場合があったりします。
施設自体を閉鎖する事態にもなりかねないため、今後の動きについて深掘りしていきます。
運営会社が変わる
特養が赤字により倒産した場合、施設の運営を引き継ぐ新しい運営会社が必要となるのが一般的です。
運営会社が変わると、施設の方針やサービスの提供方法が見直される可能性があり、入居者や家族にとっては不安材料となりかねません。
しかし、新しい運営会社が施設の経営を効率化し、サービスを改善できれば、より良い環境の提供も可能です。
また、新しい運営会社によるスタッフの再教育や施設の設備改善などがあると、よりサービスの質が向上するケースもあります。
入居基準が変わる場合がある
特養が赤字経営により倒産して運営会社が変わると、入居基準が見直されるケースも考えられます。
特養は要介護度の高い高齢者を優先的に受け入れる施設ですが、運営会社が変わると、新たな経営方針を考慮して入居基準が調整される場合があります。
たとえば、要介護度が比較的低い入居者を受け入れる割合を増やしたり、特定の条件を満たす入居者のみに限定したりなどが挙げられます。
入居基準の変更は、現在の入居者や家族に不安を与える可能性があるため、施設側は十分な説明とコミュニケーションが必要です。
さらに、新たな入居基準により待機者リストに変動が生じるケースが考えられるので、長期的な視点が重要です。
施設自体を閉鎖するケースもある
特養が赤字経営に陥り、経済的な負担が増大すると、施設自体を閉鎖せざるを得ない状況が発生する場合もあります。
特養の閉鎖は施設からの支援が頼りな入居者や家族にとって重大な影響を及ぼします。
たとえば、入居者は入居基準の変更が原因で、新しい施設を探さなければいけなくなり、介護スタッフも職を失うリスクがあるのです。
入居者や家族、介護スタッフにとって精神的・肉体的なストレスを与えてしまうため、地域からの評判を落としてしまう可能性も考えられます。
施設を閉鎖し、別の事業所で責任者になったとしても、介護スタッフの意識を低下させる原因にもなりかねないため、意向の確認が必須です。
施設の閉鎖を決める前に、入居者や家族、介護スタッフとの入念な打ち合わせをして決められるよう体制を整えていきましょう。
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特養の赤字経営を対策する方法
特養の赤字経営における原因が把握できたら、黒字経営になるよう以下の対策を講じていきましょう。
- 生産性を向上する
- 職場の環境を整える
- M&Aを視野に入れる
- ポータルサイトに施設を掲載してもらう
すべての対策を一度に講じるのではなく、できる対策から順番に実施していけるよう、具体的に解説していきます。
生産性を向上する
特養の赤字経営を改善するためには、生産性の向上が不可欠です。
生産性を向上し、特養の赤字を減らす改善策として以下の方法が挙げられます。
改善策 | 目的 | 期待できる効果 |
---|---|---|
テクノロジーの導入 | 業務効率化 | スタッフの負担軽減、時間の有効活用 |
研修プログラムの充実 | スタッフのスキルアップ促進 | 業務の質向上、モチベーション向上 |
業務プロセスの見直し | 働きやすさの改善 | 効率的な運営、全体の生産性向上 |
フィードバックの収集 | サービス改善 | 顧客満足度向上、入居者数増加 |
特養の赤字経営を改善するために、入居者や家族に向けたアンケート収集もおすすめの手段です。
職場の環境を整える
特養の赤字経営を改善するためには、職場の環境を整えるのが重要です。
たとえば適切な休憩スペースを確保すると、スタッフが安心してリラックスできる環境が整います。
職場の雰囲気を良くするのも効果的で、スタッフ間のコミュニケーションを円滑にし、チームワークを促進が期待できます。
職場内での人間関係を良好に保つために、管理職の方が積極的にスタッフの声に耳を傾け、問題を早期に解決するのが大切です。
なお、介護の現場でも若手教育の一環も兼ねてVR化が進んでいます。
以下の記事では、VRの活用方法や期待できる効果などを解説しているので、施設で働くスタッフの平均年齢が低い場合はとくに参考にしてください。
関連記事:介護現場におけるVRの活用方法と効果!注意点や導入事例を紹介
M&Aを視野に入れる
特養が赤字経営になり、事業の継続が難しい場合は、M&A(合併・買収)も1つの対策手段となります
経営が厳しい特養がM&Aを通じてほかの企業と統合すると、経営資源の効率的な活用が可能です。
とくに、規模の拡大による経済的利益の向上や異なるノウハウの融合によるサービスの質が向上する可能性も高まります。
また、M&Aは新たな資金調達の手段ともなり、設備投資やスタッフの待遇改善に資金を充てられ、職場環境の向上もできます。
M&Aを検討している方は、トラブルなく成功させるため、双方の企業が互いの強みを理解し、長期的な視点で協力し合えるかが重要です。
ポータルサイトに施設を掲載してもらう
経営する特養をポータルサイトに掲載すると、不特定多数の入居希望者にアプローチできるため、おすすめの手段の1つです。
インターネットが普及した現代において、多くの方が施設を選ぶ際にインターネット検索を利用しています。
つまり、ポータルサイトへの掲載は、施設の認知度を高め、潜在的な利用者や家族にアプローチする絶好の機会となるのです。
ポータルサイトへ掲載すると、施設の種類や価格帯だけでなく、認知症の受け入れ体制などを直感的に操作し、施設の絞り込みができます。
網羅的に施設の情報を入れ込めるため、検索エンジン最適化(SEO)の対策ができるのもおすすめポイントです。
しかし、施設を紹介するポータルサイトへの掲載料が、月額30,000円以上かかるケースもあり、赤字経営につなげる原因を増やしてしまう可能性があります。
特養の集客力を高めるポータルサイトですが、費用対効果が見込めるかどうかの見極めが重要です。
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特養が赤字に陥る原因には、人員不足や入居者の減少、原油価格の高騰などが挙げられます。
赤字に陥る原因は結果として、介護施設の経営を圧迫し、施設の閉鎖や運営会社の変更に発展する可能性もあります。
特養が持続可能な経営を維持するためには、生産性の向上や職場環境の改善、さらにはM&Aなどの戦略的な施策が必要です。
集客力を高めるポータルサイトも、コストがかかってしまうケースもあるため、デメリットに感じてしまうでしょう。
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監修者 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長会 斉藤 正行
一般社団法人全国介護事業者連盟理事長。立命館大学卒業後、複数の介護関連企業で要職を歴任し、日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。講演活動やメディア出演も多数。