ターミナルケアは、病気などにより余命わずかと診断された方が、人生の最期を自分らしく穏やかに過ごすための支援を指します。このケアの意味を理解する上で重要なのは、単なる延命治療ではなく、身体的・精神的な苦痛を和らげ、生活の質を維持することに重点を置く点です。
ターミナルケアの提供には、医師や看護師による医療的アプローチに加え、介護福祉士による生活支援、ソーシャルワーカーによる社会的支援など、看護、介護、医療の専門家が連携してチームで取り組みます。
ターミナルケアの基本的な考え方

ターミナルケアについて厚生労働省は、終末期の定義を「複数の医師が客観的な情報をもとに、治療により病気の回復が期待できないと判断すること」としています。この時期に行われるターミナルケアの目的は、延命ではなく、残された時間をその人らしく、尊厳を持って生き抜くことを支援することにあります。
身体的な苦痛を緩和するだけでなく、精神的な安らぎを保ち、患者本人とその家族のQOL(生活の質)を最大限に高めることを目指します。
人生の最期に寄り添う終末期医療とは
終末期医療とは、回復の見込みがないと判断された患者に対して行われる医療ケア全般を指します。その大きな目的は、病気の治癒ではなく、患者が人生の最期を穏やかに、そして尊厳を保ちながら過ごせるように支援することです。
無理な延命治療は行わず、痛みや不快な症状を緩和するための処置が中心となります。患者本人の意思が最大限に尊重され、どのような最期を迎えたいかという希望に基づいたケアプランが作成されます。
家族との時間を大切にしたり、趣味を楽しんだりと、残された時間を有意義に過ごせるよう、医療チームが身体的、精神的な両面からサポートを展開します。
ターミナルケアを検討し始めるタイミング
ターミナルケアを開始する明確な判断基準は設けられていません。一般的には、医師から病気の治癒が望めず、余命が数ヶ月程度と告げられた時点がひとつの目安です。しかし、最終的な判断は本人や家族の意思が尊重されます。
具体的な基準としては、がんの末期で積極的な治療が困難になった場合や、老衰によって食事や水分を自力で摂取できなくなった状態、意識レベルが低下し、意思疎通が難しくなった状況などが挙げられます。
こうした身体の変化が見られた際に、本人や家族、医療・介護スタッフが話し合い、今後の過ごし方について検討を始めることが多いです。
ターミナルケアと緩和ケア・看取りとの違いを解説

終末期の支援を考える際、「ターミナルケア」「緩和ケア」「看取り」という言葉がよく使われますが、これらは似ているようで異なる意味を持ちます。特に緩和ケアは、ターミナルケアと混同されやすいですが、ケアを開始する時期や対象となる範囲に違いがあります。
それぞれの言葉が指すケアの内容と期間を正しく理解することで、本人や家族が置かれた状況に応じて、どのような支援が必要なのかを適切に判断できるようになります。
目的と対象期間が異なる「緩和ケア」
緩和ケアは、生命を脅かす疾患による身体的・精神的な苦痛を和らげることを目的としています。ターミナルケアとの大きな違いは、ケアを開始する時期です。緩和ケアは、がんなどの病気の診断を受けた初期段階から治療と並行して行われるのが特徴です。
対象も患者本人だけでなく、その家族も含まれ、治療中の副作用の軽減や、病気に対する不安のケアなども行います。一方で、ターミナルケアは回復が見込めないと判断された終末期に特化したケアであり、緩和ケアはより広い期間と対象をカバーする考え方です。
死が間近に迫った時期に行う「看取り」
看取りとは、ターミナルケアの最終段階に位置づけられるケアであり、死が目前に迫った数日から数週間に行われます。この時期は、食事や水分がほとんど摂れなくなり、意識が混濁するなど、死期が近いことを示す兆候が現れます。
看取りのケアでは、延命を目的とした医療行為は行わず、本人が穏やかに最期の時を迎えられるようにすることに重点が置かれます。具体的には、呼吸の苦しさを和らげる体位の工夫や、口腔内の保湿、穏やかな声かけなど、身体的・精神的な苦痛を最小限にするための支援が中心となります。
ターミナルケアで受けられる3つの具体的な支援

ターミナルケアの内容は、医療的な処置に留まりません。患者が残された時間をその人らしく過ごせるよう、身体的、精神的、社会的な側面から多角的に支援します。
ターミナルケアの具体的な内容として、これら3つのケアが柱となります。それぞれのケアは独立しているのではなく、互いに連携しながら、患者本人と家族のQOL(生活の質)を総合的に支えることを目指して提供されるものです。
痛みを和らげる身体的なケア
身体的なケアは、患者が感じる苦痛を直接的に緩和することを目的とします。
がんによる痛み、呼吸困難、吐き気、倦怠感といった症状に対して、医師や看護師が医療用麻薬などの薬剤を用いてコントロールします。また、床ずれ(褥瘡)の予防や口腔ケア、入浴や排泄の介助といった日常的な看護・介護も重要です。
これにより、身体の清潔を保ち、不快感を軽減します。さらに、患者の状態に合わせて無理のない範囲で身体を動かすリハビリを行い、残された身体機能の維持を図ることも、QOLの向上に寄与するケアの一環です。
不安な気持ちに寄り添う精神的なケア
終末期を迎えた患者は、死への恐怖や孤独感、将来への不安、家族への申し訳なさなど、様々な精神的苦痛を抱えます。
精神的なケアでは、こうした気持ちに寄り添い、穏やかに過ごせるよう支援します。専門のカウンセラーや看護師が対話を重ね、患者の思いや不安を傾聴することが基本です。
また、本人が望む過ごし方を尊重し、趣味や好きな音楽を楽しめる環境を整えたり、希望に応じて宗教家との面談を設定したりします。アニマルセラピーの一環として、許可された施設で愛犬などペットとの時間を作ることも、心の安らぎにつながります。
経済的・社会的な問題を解決する支援
病気の治療や介護には、医療費や生活費といった経済的な問題が伴います。また、患者は社会的な役割を失うことによる孤立感や、家族関係の変化に悩むことも少なくありません。
こうした問題に対応するのが、ソーシャルワーカーを中心とした社会的支援です。
医療費の負担を軽減するための公的制度(高額療養費制度や医療費控除など)の案内や、介護保険サービスの利用手続きの補助を行います。また、患者や家族が抱える問題に応じて、地域の相談窓口や支援団体との連携を図り、必要なサポートを受けられるように調整します。
ターミナルケアを受けられる3つの場所とそれぞれの特徴

ターミナルケアを受ける場所には、主に「病院」「介護施設」「在宅」という3つの選択肢があります。それぞれの場所には異なる特徴があり、医療体制の充実度や生活の自由度、費用などが異なります。
どの場所を選ぶかは、本人の病状や希望、家族の介護力、経済状況などを総合的に考慮して判断することが求められます。本人と家族が納得のいく最期を迎えるために、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。
医療体制が充実している病院で受けるメリット
病院、特に緩和ケア病棟でターミナルケアを受ける最大のメリットは、医療体制が整っている点です。医師や看護師が24時間常駐しているため、痛みのコントロールや急な容体の変化に対して、迅速かつ専門的な対応が可能です。
医療機器や薬剤も充実しており、呼吸困難や強い痛みなど、在宅では管理が難しい症状にも対応しやすい環境です。また、家族にとっては、専門家に任せられるという安心感が得られ、介護による身体的・精神的な負担が軽減されるという利点もあります。
生活の自由度が低い病院で受けるデメリット
病院でターミナルケアを受ける場合、集団生活の場であるため、様々な制約が生じます。
面会時間が決められていたり、消灯時間が設定されていたりと、自宅のように自由な生活を送ることは難しくなります。また、個室でない限りプライバシーの確保が難しく、他の患者の生活音が気になることもあります。
住み慣れた環境から離れること自体が、本人にとって大きなストレスになる可能性も考えられます。ペットと一緒に過ごしたり、好きな時間に食事をしたりといった、個人の希望に合わせた柔軟な対応が難しい点はデメリットと言えます。
専門スタッフによるケアを受けられる介護施設のメリット
近年、看取りに対応する特別養護老人ホームや介護老人保健施設(老健)、有料老人ホームなどが増加しています。これらの施設では、介護の専門スタッフが24時間体制で常駐し、食事や入浴、排泄といった日常生活のサポートを受けながら生活できる点がメリットです。
医療機関との連携体制も整っており、看護師による健康管理や、協力医による定期的な訪問診療を受けられます。また、他の入居者との交流やレクリエーションが用意されている施設もあり、社会的なつながりを感じながら過ごすことも可能です。
入居費用がかかる介護施設のデメリット
介護施設でターミナルケアを受ける際の大きなデメリットは、費用負担です。特に有料老人ホームでは、入居一時金や高額な月額利用料が必要になる場合があります。
また、施設によっては医療体制が十分ではなく、夜間は看護師が不在であったり、対応できる医療行為に限りがあったりすることも少なくありません。
そのため、訪問診療や訪問介護といった外部サービスとの契約が別途必要になるケースも考えられます。人気の施設は空きがなく、すぐに入居できない可能性がある点も考慮しておく必要があります。
住み慣れた環境で過ごせる在宅ケアのメリット
在宅でターミナルケアを受ける最大のメリットは、本人が最も安心できる住み慣れた環境で最期の時を過ごせることです。自分のペースで生活でき、家族や親しい友人、ペットと共に時間を過ごせるため、精神的な安らぎを得やすいといわれます。
近年は、在宅医療の体制が整備され、医師による訪問診療や看護師による訪問看護、ヘルパーによる生活援助などを組み合わせることで、自宅でも専門的なケアを受けることが可能です。これにより、本人の「家で最期を迎えたい」という希望を叶えやすくなっています。
家族の負担が大きくなる在宅ケアのデメリット
在宅ケアを選択した場合、介護の中心的な役割を担う家族の負担が大きくなる点が最大のデメリットです。24時間体制での見守りや、痰の吸引、体位交換といった医療的ケアが必要になることもあり、介護者の身体的、精神的負担は計り知れません。
症状によっては、1日に12回以上のケアが必要になるケースも存在します。
また、夜間に容体が急変した際の対応に不安を感じる家族も少なくありません。介護保険サービスには利用限度額があり、それを超えるサービスを利用する場合は全額自己負担となるため、経済的な負担が増大する可能性もあります。
本人らしい最期を迎えるために家族ができること

家族は、ターミナルケアを受ける本人にとって最も身近な支援者であり、その役割は非常に重要です。
ターミナルケアのポイントとして、まず本人の意思を最大限に尊重することが挙げられます。本人が元気なうちに、どのような最期を迎えたいか、どこで過ごしたいか、延命治療を望むかといった点について話し合い、その意向を共有しておくことが望ましいです。
また、身体的な接触や声かけを通じて安心感を与え、本人が孤立しないように寄り添うことも大切です。同時に、介護を担う家族自身が休息を取り、心身の健康を保つことも忘れてはなりません。
まとめ

ターミナルケアは、治癒が望めない病気を抱える人が、人生の最期をその人らしく尊厳をもって過ごすための総合的な支援です。その内容は、痛みを取り除く身体的ケア、不安に寄り添う精神的ケア、そして経済的な問題を解決する社会的支援から成り立っています。ケアを受ける場所は病院、介護施設、在宅と選択肢があり、それぞれに異なる特徴が存在します。
本人と家族が十分に情報を得て話し合い、最も納得できる形を選択することが、穏やかな最期を迎える上で不可欠です。どの選択をするにしても、医師や看護師、介護士などの専門家チームが支えとなります。
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監修者 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長会 斉藤 正行
一般社団法人全国介護事業者連盟理事長。立命館大学卒業後、複数の介護関連企業で要職を歴任し、日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。講演活動やメディア出演も多数。






