「人工透析にはどんな種類があるんだろう」
「治療の継続にはお金がかかりそうだから、利用できる補助金があれば知りたい」
このようなお悩みを抱えていませんか?
人工透析には血液透析と腹膜透析の2種類があります。このうち主流となっているのは血液透析で、国内の透析患者の約97%がこの治療法を選択しています。
本記事では人工透析の種類や治療頻度、利用できる助成金を紹介しています。透析治療への理解を深めたい方、制度を知りたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
人工透析は慢性腎不全の方が対象の治療
人工透析は、腎臓本来の役割である「血液のろ過機能」を人工的に代替する治療法です。腎臓が正常に機能しなくなった際に行われます。
腎臓は血液をろ過し、老廃物や余分な水分を体外に排出する役割を担っていますが、病気などで機能が低下すると「腎不全」と呼ばれる状態になります。さらに進行して腎機能の回復が見込めなくなると「慢性腎不全」になります。
慢性腎不全の状態に陥ると血液中の不要な水分や老廃物を体外に排出できなくなり、命に関わる危険もあるため、人工透析が必要です。
また、慢性腎不全の状態になると体内に毒素や水分がたまり、倦怠感・頭痛・吐き気・不眠などの「尿毒症症状」が現れることもあります。
人工透析によって血液を体外で浄化し、再び体内に戻す処置が必要です。治療を行うことで、日常生活を維持できるようになります。
人工透析は「血液透析」と「腹膜透析」の2種類
透析療法は血液を直接ろ過する「血液透析」と、お腹の膜を使って老廃物を取り除く「腹膜透析」に分かれます。
国内では血液透析が主流で、患者の約97%(339,199人)が選択しており、腹膜透析を受けているのは全体の約3%(10,501人)です。
ここでは、人工透析の種類の特徴、治療法を詳しく紹介していきます。
参考:「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在)」
血液透析
血液透析は、日本でもっとも多く行われている透析方法です。
血管に針を刺して体外に出した血液を専用の機器でろ過し、不要な老廃物や水分を除去してから体内に戻します。病院で定期的に治療を受けるため日常に制限がかかる一方で、効果的に毒素を除去できる点がメリットです。
血液透析の種類は、以下の5つです。
種類 |
特徴 |
長時間透析 | 時間をかけて透析することで体への負担が少なく、毒素除去も効果的 |
オーバーナイト透析 | 就寝中に行う透析で、日中は自由時間を確保できる |
頻回透析 | 週5回以上行い、1回の時間が短く負担が少ない |
血液濾過透析 | 中分子毒素も除去できる高機能な透析法 |
在宅透析 | 在宅で透析を行うため、通院の手間を省ける |
血液透析の際は十分な血液の流れを確保するために、手術で内シャント(動脈と静脈をつなぐ血管の通り道)を腕の血管でつなぎ合わせることから始まります。
シャントは透析をスムーズに行うための重要な生命線であり、造設後は清潔に保つケアが必要です。
腹膜透析
腹膜療法は自分の腹膜を「透析膜」として行う治療法で、体内の老廃物や余分な水分を取り除く方法です。お腹にカテーテルという管を入れて透析液を注入し、時間をおいてから排出することで、血液を浄化します。
腹膜透析の種類は、以下の2つです。
種類 |
特徴 |
交換のタイミング |
CAPD(持続携行式腹膜透析) | 手動で透析液を交換する方法 | 日中に1日3〜5回 |
APD(自動腹膜透析) | 就寝中に機械で自動的に透析を行う方法 | 夜間の睡眠中 |
腹膜透析は日中の自由が利きやすく、通院が困難な高齢者でも自己管理ができれば取り組みやすい点が特徴です。また、心臓への負担が少なく、腎機能を残しやすいメリットもあります。
衛生管理が不十分だと腹膜炎のリスクがあるため、長期的には腹膜の動きが低下する可能性もあります。
人工透析を受けるベストな頻度と時間
人工透析には血液透析と腹膜透析の2種類がありますが、ここでは主に一般的な血液透析における治療の頻度と時間について解説します。
血液透析は通常、週3回、1回4時間ほど行われるのが一般的です。
腎臓が1日中働いていることを考えると、透析の時間や回数を増やす選択肢もあります。最近では自宅で透析できる方法や、老廃物をよりしっかり取り除ける手法など、治療スタイルが多様化しています。
以下は、透析方法別の頻度と時間です。
透析方法 |
頻度 |
1回あたりの時間 |
頻回透析 | 隔日または連日(月~日など) | 4~6時間 |
オーバーナイト透析 | 週3回(就寝中) | 7~8時間 |
在宅血液透析(HHD) | 医師と相談し自由に設定可 | 6~8時間 |
オンラインHDF | 一般的に週3~4回 | 4~6時間 |
透析方法には、生活スタイルや体調に合わせた柔軟な対応が可能です。特に在宅透析やオーバーナイト透析は日中の自由時間を確保しやすく、仕事や家庭との両立を目指す方にとって有力な選択肢となります。
参考:全腎協「腎臓病について」
人工透析の料金|月に約40万円
人工透析は、月に約40万円の医療費がかかる高額な治療です。定期的な通院や物品の購入が必要なので、1カ月で数十万円単位で請求されることが多いです。
医療費の目安は、以下のとおりです。
項目 |
費用の目安 |
1回あたりの治療費(血液透析) | 約3万円 ※月12回で約40万円 |
1回あたりの治療費(腹膜透析) | 月30~50万円 |
人工透析は1カ月でかかる費用が大きいものの、高額療養費制度を利用すれば、自己負担額を1〜2万円に抑えられます。
人工透析で利用できる3つの公的助成金制度
人工透析の費用は高額ではあるものの、公的な助成金を利用すれば金銭的負担を抑えられます。
人工透析で利用できる公的助成金制度は、以下の3つです。
- 長期高額疾病
- 自立支援医療
- 重度心身障害者医療費助成制度
それぞれの制度には所得制限や申請手続きが必要な場合もあるため、透析を始める前に医療機関や自治体窓口で確認しておくと安心です。制度の概要を解説していきます。
長期高額疾病|自己負担額を軽減できる
高額療養制度は、1カ月で自己負担額を超えた場合の医療費が払い戻される仕組みです。医療費の上限額は、年齢や所得によって異なります。
医療費の上限は、以下のとおりです。
年齢・所得区分 |
外来 |
入院・世帯単位 |
|
70歳未満 | 上位所得者 | ー | 150,000円+(医療費-500,000円)×1% 【多数該当:83,400円】 |
一般 | ー | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 【多数該当:44,400円】 |
|
低所得者 | ー | 35,400円 【多数該当:24,600円】 |
|
70歳以上 | 一般 | 12,000円 | 44,400円 |
低所得者Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | |
低所得者Ⅰ | 15,000円 | 15,000円 |
出典:厚生労働省保健局「高額医療費制度について」
多数該当とは、過去12か月の間に高額療養費の支給を3回受けており、4回目以降に該当した場合に自己負担限度額が軽減される特例です。
人工透析のように長期間の治療が必要となる場合、特定疾病療養制度や多数該当の仕組みを利用することで、月々の自己負担額を大幅に抑えられます。
自立支援医療|外来の医療費を1割に抑える
自立支援医療とは、継続的な医療が必要な方の経済的負担を軽減する制度です。人工透析を含め長期間にわたる治療が必要な人が対象で、治療を受けやすくすることを目的としています。
自立支援医療を活用すると、以下のように外来の医療費を抑えられます。
区分 |
世帯年収の目安 |
負担上限(月額) |
一定所得以上 | 約833万円以上 | 対象外 ※重度かつ継続の場合は20,000円 |
中間所得2 | 約400~833万円 | 1割または高額医療費の自己負担限度額または10,000円 |
中間所得1 | 約290~400万円 | 1割または高額医療費の自己負担限度額たは5,000円 |
低所得2 | 市町村民税非課税(低所得1を除く) | 5,000円 |
低所得1 | 市町村民税非課税(本人又は障害児の保護者の年収80万円以下) | 2,500円 |
生活保護 | 生活保護世帯 | 0円 |
出典:厚生労働省「自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み」
人工透析を受ける方が自立支援医療の制度を利用すれば、自己負担額を最大でも20,000円に抑えられます。
重度心身障害者医療費助成制度|助成が受けられる
重度心身障害者医療費助成制度の対象者や条件は、地域によって内容が異なります。一般的には心身障害者手帳の所持者や療育手帳の所持者が対象です。
たとえば東京都の場合、以下のように自己負担額から一部負担金を差し引いた額を助成してくれます。
負担割合 |
自己負担上限額(月) |
|
住民税課税者 | 通院のみ | 18,000円 |
通院および入院 | 57,600円 | |
住民英非課税者 | 通院のみ | 負担なし |
通院および入院 | 負担なし |
出典:福祉局「心身障害者医療費助成制度(マル障)」
制度の利用には、事前の申請と受給者証の取得が必要です。詳細については、お住まいの都道府県や市町村の公式サイトや相談窓口にてご確認ください。
関連記事:家族の介護でもらえるお金は?ジャンル別に9つの制度を解説
人工透析を受ける病院・施設を選ぶときのポイント
人工透析は長期間にわたり定期的に受ける必要がある治療です。そのため、施設から通院する際は、通いやすさだけでなく医療体制やスタッフの対応力も重要な判断基準となります。
また、一部の介護施設では人工透析が必要な方の入居を受け入れている介護施設もあるため、治療を継続しやすいです。
病院や施設を選ぶときのポイントは、以下の3つです。
- 透析治療を受けやすい環境か
- スタッフは人工透析への理解があるか
- 緊急時に対応できる体制は整っているか
ポイントを踏まえて施設を探すと、安心して透析治療を継続できる環境づくりにつながります。何を重視すればいいのか、詳しく解説していきます。
透析治療を受けやすい環境か
透析治療は週に数回、1回あたり4時間以上の治療が必要となるため、透析治療を受けやすい環境かどうかは大事な判断基準です。
介護施設を利用する場合は、以下のような条件を満たしていれば、スムーズな通院・治療が可能です。
- 病院が施設の近くにある、または併設されている
- 施設に送迎体制が整っている
- かかりつけ医や病院と連携が取れている
認知症で付き添いが必要な場合は職員の拘束時間が長くなるため、十分な人員体制がない施設は入居を断られることもあります。治療の際に家族の付き添いが必要なのかも含め、あらかじめ施設と相談しておきましょう。
関連記事:60歳でも施設への入所は可能?介護施設の種類や入居条件を解説!
スタッフは人工透析への理解があるか
透析治療を受ける方の多くは血液透析を選んでおり、腕にシャントと呼ばれる人工血管を挿入して血液を体外へ取り出す仕組みを利用しています。シャント部位はデリケートで、日常生活でも特別な配慮が必要です。
たとえば、以下のような配慮が必要です。
- シャントのある腕に圧をかけない
- 重い物を持たせない
- シャント側の腕では血圧を測らない
スタッフがシャフトの扱いを知らずに力を加えてしまうと、血管が損傷し重大な事故につながる可能性もあります。また、感染症のリスクもあるため、透析治療に理解のあるスタッフがいれば、本人も家族も安心して過ごせます。
緊急時に対応できる体制は整っているか
透析患者は免疫力が落ち体調を崩しやすいため、急に容体が悪化するケースもあります。
透析患者は心不全や感染症、脳梗塞といった合併症を発症するリスクも高いため、緊急時に対応できる体制が整っているのかは重要なポイントです。
介護施設を利用する場合は、以下のような点を確認しておくと安心です。
- 施設と病院との間にスムーズな連携体制があるか
- 緊急時の搬送ルートや受け入れ先が事前に確保されているか
- 日頃から医師や看護師と情報共有が行われているか
いざというときに適切な医療を迅速に受けられる環境が整っている施設のほうが、安心して暮らせます。
関連記事:介護老人ホーム入居までの流れを詳しく解説!施設見学から契約まで
透析治療を行いながら入居できる介護施設の情報を検索できる「いいケアネット」では、介護保険や介護サービスの情報を「いいケアジャーナル」で随時更新中です。
人工透析の種類を把握して自分に合った治療を進めよう【まとめ】
人工透析は「血液透析」と「腹膜透析」の2種類あり、多くの方が血液中の老廃物や水分を除去する血液透析で治療を行っています。
医療費が月に40万円ほどかかるため、金銭的な負担も大きいです。また、血液透析は週3回、4時間の治療を行うため、時間的な拘束も大きな負担になります。
本記事を参考に、高額療養費制度などの助成制度を活用し金銭的負担を減らし、介護施設の支援を受けながら、安心して治療を継続できる環境を整えましょう。
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