ウェルナー症候群という通常よりも早く老化する病気の1つに、鳥様顔貌(ちょうようがんぼう)と呼ばれる特徴的な顔つきがあります。まるで鳥のように見える顔立ちは、ウェルナー症候群を疑う上で重要な手掛かりです。
本記事では、鳥様顔貌とはどのようなものか、そしてウェルナー症候群の症状や原因、治療法、さらに介護保険の適用について詳しく解説していきます。
ウェルナー症候群への理解を深め、必要な介護サービスの利用を検討する際の参考にしてみてください。
鳥様顔貌(ちょうようがんぼう)とは|早老症で見られる症状
鳥様顔貌とは字の通り、顔つきが鳥のようになっている状態のことです。
具体的には、以下の特徴があります。
- 口や鼻周辺の皮膚が萎縮する
- 口や鼻が細くとがってしまう
- 下あごが極端に小さい
横から見ると顔のラインが鳥の横顔と似ている状態を指します。顔つきの変化は約96%の患者に見られると報告されています。
特徴的な顔つきは早老症(そうろうしょう)という病気の人によく見られ、実年齢よりも老けて見える外見に変化を与える症状の1つです。
顔の変化に加え、骨格や皮膚の老化が同時に進行するため、見た目から病気の進行に気付くケースもあります。鳥様顔貌は、早老症の診断の手がかりとなる重要な特徴です。
出典:日本老年医学会|早老症 Werner 症候群の診察ガイドライン
ウェルナー症候群とは|症状のひとつに鳥様顔貌がある
ウェルナー症候群は1904年に報告された劣性遺伝の遺伝性疾患で、20歳以降、白髪や白内障などの老化現象が現れやすくなる病気です。
ウェルナー症候群の症状の1つに鳥様顔貌があり、鼻が細くとがり、顎が小さく後退して見えるのが特徴です。顔以外にも四肢の筋の委縮、音声の異常など見た目に変化が現れますが、知能は年相応に成長します。
早老症に分類されるウェルナー症候群は、全世界で6割が日本人であり、日本に患者が多い病気です。国の難病に指定されており、医療費補助の対象となる可能性があります。
難病に指定されているウェルナー症候群とは何なのか、詳しく解説していきます。
症状|鳥様顔貌・白髪や脱毛などの毛髪変化
ウェルナー症候群は10歳くらいまでは正常に発達しますが、20代をすぎると鳥様顔貌や白髪、髪が抜けてしまうなど見た目に変化が現れるようになります。
日本には約2,000人の患者がおり、代表的な症状は以下のとおりです。
- 髪の毛の変化
- 両目の白内障
- 皮膚の萎縮・硬化・腫瘍形成
- アキレス腱などの石灰化
- 鳥様顔貌
- 高音がかすれる
これらの症状に加え、ウェルナー症候群は糖尿病や脂質異常症、動脈硬化、悪性腫瘍といった病気も進行しやすいことが知られています。
少しでも違和感を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
原因|主に染色体の異常
ウェルナー症候群の原因は、8番染色体にある「WRN遺伝子」のホモ接合体変異です。
WRN遺伝子に異変が起こり正常なWRNヘリカーゼという酵素が作れないと、ウェルナー症候群を引き起こすと考えられています。以前は近親婚が多い地域での発症が多かったものの、最近では血族結婚以外の患者が増えてきました。
なぜ早老症や糖尿病などを引き起こすのか、現代の医療をもってしても詳しいメカニズムはまだ解明されていません。
治療法|根本的な治療は未確立
ウェルナー症候群の発症頻度は5〜6万人に1人、日本には2,000人ほどの患者がいると言われています。現在のところ完治させる治療法や、見た目の変化を改善する方法は見つかっていません。
しかし、症状に応じた治療を行えば、快適な生活は可能です。以下は、ウェルナー症候群と合併しやすい病気・疾患と、代表的な治療例です。
ウェルナー症候群と合併しやすい病気・疾患 | 代表的な治療例 |
白内障 | 人口眼内レンズを挿入する手術 |
糖尿病 | 薬物療法(インスリン分泌、働きを良くする薬を服用) |
皮膚の傷 | 清潔を保つ指導や保存療法
※効果が見られない場合、皮膚移植も検討 |
ウェルナー症候群は糖尿病や脂質異常、悪性腫瘍、動脈硬化症といった病気を合併しやすいことが知られています。定期的に医療機関を受診し、病気や異常を早期に発見できる環境を整えておきましょう。
予後|寿命が10年伸びたという報告も
以前はガンや心筋梗塞などの病気により、40代半ばで亡くなる人が多かったです。しかし、医療の進歩や平均寿命が10年以上延びたことにより、70代の患者さんも増えています。
さらに寿命を伸ばすためにできることは、次の5つです。
- 内臓脂肪型の肥満や糖尿病、脂質異常症の予防・治療を行う
- たんぱく質摂取を心がけ、筋肉が痩せるのを予防する
- 骨粗しょう症の予防をする
- 皮膚が傷つかないよう予防、早期治療を行う
- ガンの発生率が高いため早期発見を心がける
ウェルナー症候群の予後は、良い傾向に進んでいます。生活習慣病対策、筋力維持、骨と皮膚のケア、がん検診を意識し、積極的に治療と向き合いましょう。
出典:千葉大学医学研究院|ウェルナー症候群ハンドブック
ウェルナー症候群は要介護認定を申請できる特定疾病
ウェルナー症候群を含む早老症は16種類ある特定疾患に該当しており、要介護認定を申請できます。
申請が通れば介護保険が適用され、介護サービスのコストを抑えられます。
申請をするには、早老症(ウェルナー症候群)である正式な診断が必要です。
以下は、ウェルナー症候群の診断における手引きとなる表です。
1.主徴候 | a.早老性外貌
b.白内障 c.皮膚の萎縮、硬化または潰瘍形成 |
2.その他の徴候と初見 | a.原発性性腺機能低下
b.低身長および低体重 c.音声の異常 d.骨の形成などの異常 e.糖同化障害 f.早期に現れる動脈硬化 g.尿中ヒアルロン酸増加 h.血族結婚 |
3.皮膚線維芽細胞の分裂能の低下 | ー |
出典:千葉大学 大学院医学研究院『ウェルナー症候群の診断・診察ガイドライン』
主徴候(a,b,c)すべて、かつその他(2)から2つ以上、または主徴候から2つと皮膚線維芽細胞の分裂能低下(3)がある場合、ウェルナー症候群と確定されます。
主徴候から2つと、その他(2)から2つ以上がある場合は疑いがあるので、詳しい検査を受けましょう。
要介護認定の申請が通れば、在宅介護や施設の利用など選択肢が広がるので、お住いの市区町村の窓口で相談してみてください。
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ウェルナー症候群の理解を深め介護サービスの利用を検討しよう【まとめ】
ウェルナー症候群は、加齢が通常より早く進行する「早老症」に分類される遺伝性疾患です。特徴的な症状の1つが「鳥様顔貌」と呼ばれる顔の変化です。鼻が細く尖り、下あごが小さく後退することで鳥の横顔のような印象になります。
ウェルナー症候群の進行を完全に止める治療法はありませんが、適切な医療と介護サービスを活用すれば生活の質を保てます。
定期的な健康チェックや早期治療、生活習慣の見直しを行うことで合併症のリスクを抑え、安心して長く暮らせる環境を整えられます。介護サービスの利用も視野に入れ検討しましょう。
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監修者
大阪大学医学部大学院寄附講座教授・医学博士
森下 竜一
大阪大学医学部大学院寄附講座教授・医学博士。スタンフォード大学での研究経験を持ち、健康医療戦略の政府参与や2025年大阪・関西万博の総合プロデューサーを務める。これまで多くの受賞歴を持ち、抗加齢医学専門医などの資格も保有。